病院経営ウェブマガジン“Healthcare Compass (ヘルスケア・コンパス)”

Healthcare Compass (ヘルスケア・コンパス)。病院経営ウェブマガジン。病院経営の中でも急性期病院の経営・運営に携わる人のためのメディアです。

Healthcare Compass (ヘルスケアコンパス)

病院向けクラウドサービスにもっと参入してください

Healthcare Compassのコサコです。

2019年末からHealth Tech業界では、いくつかの大きな動きがありました。

JMDCは、保険者向けにレセプトデータを分析することを主な事業としている会社です。Medleyは、CLINICSなどの電子カルテ・遠隔診療向けシステムの開発もおこなっていますが、収益の軸は医師の人材採用サービスの会社です。LINEヘルスケアは、オンライン診療の領域で、LINEの圧倒的なユーザー数を軸にクリニックと患者をつなぐサービスを提供しています。クルーズ船への医療相談の提供方法として、LINEが使われたニュースは記憶に新しいかと思います。

3つとも、ヘルスケアに関わる人たちの誰もが知るニュースとなり、業界関係者の多くが、業界の盛り上がりを喜びました。

嬉しい反面、個人的に思うのは同じヘルスケア領域の「病院」向けソリューションがまだ盛り上がっていない・・・ということ。

今回は、Health Techの中でも病院向けソリューションがもっと盛り上がってほしいという想いを込めて、病院を取り巻くシステムの状況とその中でクラウドサービスを提供している会社やサービスをいくつか紹介していきます。

 

病院を取り巻くシステムの状況

まず病院がシステムを導入するにあたって、気になることを2軸で整理してみました。

1つ目の軸は、サーバーを院内に置かないといけないオンプレミスのサービスか、アカウントやデータ接続してしまえば使えるクラウドサービスかということ。

もう1つの気になる軸は、職員全員が使う可能性があるサービスか、ある部署専用のサービスか、ということ。

この2つの軸で整理しながら、病院に導入されている代表的なもの(および応援したい企業のサービス)を例として入れてみました。

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左上:オンプレのサービスで、職員の多くが使う代表例は、電子カルテでしょう。クリニック向け電子カルテは少しずつクラウドに移行が始まっているものの、大病院の電子カルテはほとんどがオンプレで、院内にサーバーを抱えています。

左下:オンプレで限られた部署しか使わないサービスは、電子カルテの職種ごとの運用に合わせたカスタマイズ、放射線画像用のPACSサーバー、医事課や経営企画が扱うDPC分析ソフトEVEなどでしょう。

右上:クラウド型で職員全員が利用する代表は、Office 365でしょう。続いて、Officeを導入をしていない病院でも、サイボウズの製品を導入している病院もあるかと。メールや文書作成ソフトの他に、最近ではITベンチャーが提供する人事向けクラウドサービスのSmart HRが導入されている話も聞きます。紙・印鑑文化が根強い病院ですが、ホームズクラウドのような契約書管理クラウドサービスもぜひ普及してほしいです。

右下:クラウドサービスで病院の現場に根ざした課題を解決しているITベンチャーが複数存在しています。私が応援している企業を3つ紹介すると、AI問診のUbie、退院調整看護師・医療ソーシャルワーカー向けサービスのケアブック調整くん、DPC対象病院向け地域連携サービスのforo CRMがあります。

 

電子カルテが中心の病院システム

電子カルテが導入されている病院では、とにかく電子カルテを中心にシステムの話が進みがちです。

電子カルテというは、大手のベンダー(富士通やNEC、ソフトウェアサービスやIBMなど)からパッケージという標準的なソフトを導入します。

ただし、標準パッケージでは各病院での運用に支障をきたすことが多々あり、各病院はカスタマイズという形で運用に合わせた機能開発を行います。このカスタマイズは、ベンダーとパートナー関係にあるSIerと呼ばれるシステムエンジニア会社が開発を請け負います。

この「カスタマイズ」による各病院個別の機能開発は、日本の病院のシステム発展の妨げにもなっています。各病院が自分たちのサーバー上で開発をおこなうため、同じパッケージで似たような機能開発であっても、それぞれのSIerが違った設計で機能開発をおこないます。さらに他の病院で作ったカスタマイズ機能は、ベンダー内では共有されないこともあり、電子カルテの大きなバージョンアップまでは各病院がそれぞれお金を掛けてばらばらに機能を磨き込んでいます。

このカスタマイズにおける開発方法は、クラウドサービスで行われている開発方法と大きく異なります。クラウドサービスでは、ある特定のところで機能開発をおこなっても、それが汎用的に使えると判断すると、すべてのソフトウェアに追加した機能を反映することができます。
つまりカスタマイズという個別の知恵を、導入している組織すべてで共有しながら、常にバージョンアップをすることが可能になります。

 

クラウドサービスにとって、電子カルテは大きな壁

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右下の、現場に根ざした課題を解決しているクラウドサービスにとって、病院の電子カルテは大きな壁になっています。

クラウドサービスは、マイクロソフトAzureやアマゾンのAWSというWEB上からアクセスできるサーバー(それをクラウドというのですが・・・)で主にサービス開発をしています。一方、電子カルテは、オンプレという院内サーバーに置かれているため、本当の意味でシームレスにデータ連携するには、院内サーバーとインターネット上のサーバーを接続する必要があります。

しかし、病院に導入されているほとんどの標準パッケージ電子カルテは、インターネット上のサーバーと接続する機能をもっていません。そのためクラウドサービスと連携するには、病院側はカスタマイズで機能を開発する必要があります。

現場に根ざした課題を解決しているクラウドサービスは、どの病院でも同じ内容で電子カルテと接続したいところですが、各病院がカスタマイズで機能を開発してしまうと各病院の事情に合わせて都度手間をかけて接続しなければならなくなるというジレンマを抱えています。

このような状況から、現在の右下にあたる現場に根ざした課題を解決しているクラウドサービスは、電子カルテと接続しない状態で、現場の部署にサービスを提供する方法を取っている会社がほとんどです。

 

現場にはもっとクラウドサービスが必要

業界全体として病院のシステムを良くするための最短ルートは、現場に必要なクラウドサービスをどんどん増やし、クラウドサービスからのニーズを高めて、電子カルテ側に共通のインターネット通信プロトコルを作ってもらうことだと私は考えています。

では、どうして、もっと現場にクラウドサービスが必要なのでしょうか?

現場にクラウドサービスが必要な理由は

  • 月額制で安価なものが多いこと
  • 月額制がゆえに、投資対効果が見えやすく部門ごとに導入しやすいこと
  • 日本中の病院現場の課題を、病院横断で共有しやすくなること
  • クラウド上にサービスがあれば、自動化やロボット、AIなどを活用しやすいこと

が挙げられます。

ただでさえマンパワーが不足している病院の現場において、投資対効果が見えやすい形で業務を可視化・自動化することが、病院の働き方改革につながると私は信じています。

 

2020年、病院現場の課題に立ち向かうクラウドサービス

電子カルテと接続しない状態でも、現場の課題に立ち向かっているHealth Techベンチャーがあります。

先述した、現場のオペレーション課題を中心に解決しているクラウドサービス3つを紹介します。

Ubie

1つ目は、AI問診のUbie(ユビー)です。

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(参照:https://introduction.dr-ubie.com/

Ubieは、紙問診の手間を無くし、患者さんにタブレット入力をしてもらうことで、医師の初診問診時間を3分の1にできるサービスです。

電子カルテとデータ連携していなくても、問診した記録をウェブブラウザからコピーして、電子カルテにコピーすることで、オンプレ/クラウドの接続問題を乗り越えています。

UbieのデザイナーのHatakeさんが、かっこよく・わかりやすく会社情報を発信されていて、ブランディングの観点でもとても勉強になります。一読の価値ありです!

 

ケアブック調整くん

次にご紹介するのは、「ケアブック調整くん」。

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(参照:https://www.3sunny.net/cb-search

まず、名前が良い!現場で必ず「調整くんに入れといたよ〜」と言われること間違いなしのネーミング。そして、退院調整という、電話&FAXの非効率文化のところにクラウドサービスで切り込んでいると聞くだけで、涙が出そうです。

さて、そんな「ケアブック調整くん」を私が推す理由は、病院と退院先施設をテキストベースのコミュニケーションでつないでいるからです。

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退院調整において、病院のスタッフが本当に向き合いたいのは患者さんとその家族。でも、退院先とのやりとりに追われ、常に電話がなり、折り返しの電話も発生し、、、というのを繰り返しているのが今の調整業務。

ケアブック調整くんは、地域ごとに病院と退院先施設にサービスを導入して、条件を入力すれば退院先が手あげして患者さんの受け取り可否のサインを出してくれる、というとても現代のコミュニケーションに合ったサービスなのです。

退院する患者の情報を電子カルテから一発でクラウドサービス側に送ることができると、情報連携面では楽かと思いますが、彼らも電子カルテとは独立した形でサービスを展開しています。

退院先検索機能は、無料でデモを使えるので試してみることをおすすめします。

 

foro CRM

3つ目に紹介するのは、DPC病院向けの地域医療連携(前方連携)クラウドサービス「foro CRM」。

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(参照:https://foro-crm.jp/

病院の中では患者獲得の要の部署で、「営業」機能の要素を多分に持つ地域医療連携。実際、他業界の事例を多く活用しやすい部署ですが、病院内のローカルな方法で連携室を運営している病院も少なくないです。

そんな中、foro CRMは、サービスを済生会熊本病院と共同開発しているところは評価できるでしょう。

医療分野での関係構築・マーケティング・データ分析の専門家による伴走と、連携先関係管理(CRM)ツールを組み合わせた、地域連携強化サービス

また、クラウドサービスだけを提供しているわけではなく、関係構築・マーケティング・データ分析の専門家による伴走という形でコンサルティングサービスも提供しているので、「ただツールを入れただけ」で終わらせない覚悟を感じます。

Twitterではこんな声がありました。

お客さんにこのツイートをさせるくらいのサービスなのか?!と、とても期待しているサービスです。 

 

電子カルテとの連携はしていない

戦略的なのか、偶然なのか、上記3つのサービスは、患者に関する情報を取り扱うサービスにも関わらず電子カルテとの連携はしていない(と聞きます)。

サービスの立て付け上、連携が不要だったとしても、もし電子カルテが簡単にインターネット上のサーバーとの情報通信を許容していれば、話は違うはずです。もし簡単に電子カルテ連携ができれば、機能拡張のタイミングで上記サービスは確実に情報の連携をおこなうでしょう。

 

日本のHealth Tech企業のみなさんへのお願い

病院向けクラウドサービスにもっと参入してください。

そして電子カルテベンダーに、クラウドサーバーとの連携プロトコルを作るように働きかけてください。ベンダーに直接じゃなくても、厚労省にでも、新経団連を通してでもいいです。

国民皆保険とフリーアクセスが担保されている日本で、病院は多くの社会的使命を果たしています。ただ、病院は診療報酬の枠組みの中で経営しているため財政的には非常に厳しく、外部の生産性の高いサービスを使って運営していかないと今後成り立たなくなります。

ただ業務の多くを電子カルテと連動していて、病院だけで業務を効率化するには金銭的にも開発工数的にも実現が難しい現実もあります。この現代においてインターネットやAI、ロボットをフル活用して、業務の生産性をあげるのが必須なのです。

ぜひ日本のHealth Tech企業のみなさんが病院向けクラウドサービスに参入して、電子カルテとクラウドサーバーが簡単に接続され、日本中の病院が業務改善される未来を一緒に作っていきましょう!

 --筆者--
小迫 正実 (こさこ まさみ)
高校生で訪れたフィリピンのスラム街での体験から、人の命に関わる分野から経済を動かし、世界を変えたいというビジョンを抱く。
2012年慶應義塾大学卒業後、聖路加国際病院で医療の質を司るQIセンターの立ち上げに従事。分析業務から、データ×ITに課題解決の糸口を感じ2014年にヤフーに転職。広告データ事業に関わる。並行して一般社団法人Healthcare Opsを2017年に設立。2018年には公衆衛生修士をリバプール大学のオンラインコースで取得。2019年より亀田総合病院経営企画部に転職し、亀田京橋クリニックを担当。