病院経営ウェブマガジン“Healthcare Compass (ヘルスケア・コンパス)”

Healthcare Compass (ヘルスケア・コンパス)。病院経営ウェブマガジン。病院経営の中でも急性期病院の経営・運営に携わる人のためのメディアです。

Healthcare Compass (ヘルスケアコンパス)

病院の経営企画部門のマインドセット

「病院の経営企画業務とは何か?」について実際にその立場にある私から、その内容をご紹介します。

宮崎市郡医師会病院の経営情報課に所属している小塩 誠(コジオ マコト)と申します。今回は前回に引き続き経営企画部門の中身にさらに切り込んで論じてみたいと考えています。

第1回:病院の経営企画業務とは? 
第2回:病院の経営企画:宮崎市郡医師会病院を実例に 

 

病院経営企画業務とは?

今回は、最終節ということで『病院経営企画業務とは?』についての簡単なまとめを整理します。経営企画マンたるもの、企画と実行力が重要なスキルセットであり、なおかつ、これを裏付けるデータ分析力も必要とされています。当たり前のことではありますが、大きくわけて、テクニカルスキル(データ分析力)とノンテクニカルスキル(問題解決力)の両立が求められます。

データのない世界での企画業務というのももちろんありえますが、意思決定の際には論点を整理するために、現状がどのようになっているのかをデータで把握する必要があります。また、仮説を検証するためにDPCデータや診療データ等、財務データを用いてシミュレーションを行う必要がある場合もあります。

データ分析の手法は、近年に見る「ビックデータ」、「データサイエンティスト」、「機械学習」、「深層学習(Deep Learning)」、「AI」、「BI」等といったバズワードが知らせるように、急速に発展しており、もはや教科書(診療情報管理士)として普遍的に扱える代物ではありません。データ分析のスキルは鮮度が大事です。ツールは日進月歩で進化・変化していきます。これについていけない経営企画マンは病院の問題解決能力の低下を招く、そういう危機感を持たざるを得ない状況になっています。今もてはやされているBIツールも数年後には古いもので全く役に立たなくなっているおそれもあります。

データ分析のツールはBIやAIの登場により、変化していきます。しかし、本来の”問題解決力”は普遍的なものがあると考えています。要するに現代の病院経営企画部門は、

  • 「データ分析のテクニカルスキルの継続的研鑽」

  • 「問題解決能力」

の両方が必要とされおり、極めて過酷な状況にあります。

2018年、診療情報管理士の新業務指針が改定されました。「データ分析」、「問題解決」、「マネジメント」なる文言はまだありませんが、明らかに様相が変わっていることがわかります。診療情報管理士の教科書の中にもデータ分析や大規模データベースを構築し、抽出する能力が求められています。しかし、その具体的なノウハウについては、専門的かつ変化が多く、教科書の中では記述はなされていません。また、学習の機会は皆無と言っても等しい状況で、病院経営におけるデータ分析担当者育成領域は空白地帯と言っても過言ではありません。誰も教えてくれる人はおらず、学習環境は孤独との戦いです。

f:id:massy535:20200404154508p:plain

図表:診療情報管理士業務指針(新旧比較)

テクニカルスキルとノンテクニカルスキル

1. テクニカルスキル―データ分析力―

経営企画業務の業務リソース

経営企画業務を全うするためには、基本的なことなのですが、「データへのアクセス環境」と「一定のPCスペック」がリソースとして必要不可欠です。当院ではこれがまさに揃っており、他病院の経営企画業務をされている皆さんと大きなギャップを感じる点です。データをすぐに取り出せる環境が構築されているか、また、PC環境・スペックや自由度が高いか、が極めて重要であり、意外にもこのハードルあることが多いと感じることがあります。そもそも管理が厳し過ぎてソフトウェアをインストールできない。PCスペックが脆弱である。という、スタートラインに立てない環境下で分析業務にトライしなければならない、という状況を良くお見受けします。病院内の管理PCはセキュリティの関係から当然ながら不要なソフトをインストールできないように制限されていることが多いため、BIツールやSQL Server、RやPython等のフリーウェアでありながらデータ分析の基盤であるソフトをインストールできない。というハンディキャップがあることもままあります。

病院の環境はすぐには変えらないかと思いますが、まずは少しずつでも良いのでこの環境整備に努める必要がありそうです。

経営企画と情報システムの親和性

上記のようなスタート地点の課題を踏まえ、私の見解としては、経営企画部門というのは、できれば情シス部門がセットであることが理想的であると考えます。当院の場合は経営企画課ではなく、経営情報課という名前ですが、その名のイメージの如く、情シスと病歴管理、経営分析チームが一体となったセクションになっています。院内のあらゆるデータにアクセスでき、PC管理も自由度が高いです。私の上司(事務次長)は、データ分析のためならどこからでもデータを抽出し、結合するという技術とマインドの持ち主であり、毎度、あらゆるデータの所在を把握されており、いつも驚かされます。その分、我々はデータリテラシーと、情報セキュリティに万全の配慮が求められます。

[データ作成]⇒[抽出]⇒[分析]⇒[アクションに繋げる]が一組織の中で分断なく行えるかが重要です。ここでタスクが分断するとスムーズなデータ分析が行えません。そして、どのような成り立ちで入力されているデータなのかという仕様をしっかりと理解しておくことも重要です。

データ分析のテクニカルスキル

経営企画部門にはデータ分析がつきもので、データ分析のスキルが求められることは言うまでもありません。多くの分析はExcelで解決できることが多いですが、特にツールのスキルは重要です。経営企画部門は、Excel操作が極まっていることが前提条件と言わざるを得ません。さらなる基礎としては、データベース抽出・データ結合スキルが極めて重要であり、AccessやSQLの知識が必要となります。DPCデータは膨大なデータ量であるため、もはやExcelでは動きません。ですから、最低でもAccess、もっと大きな量を扱う場合には、SQLが書ける能力が必要です。

また、Excelだけでは解決出来ない所謂データ分析フェーズにおいてはBIツールやRを駆使しています。データ分析界隈では、Pythonが注目されて久しいですが、まだPythonへの踏切を超えられていない状況です。データ分析を極める上ではある程度のプログラミングスキルも必要であると考えています。

データ分析の前に論点整理

データサイエンティスト界隈でも良く言われていることですが、データ分析よりも真の課題把握、論点整理をすることの方が重要であると感じることが多々あります。実際に、我々に依頼があるデータ分析は依頼内容が『ふわっ』としたものが多いです。また、データ分析担当者自身が抱える仮説が『ふわっ』としている、論点が整理されていないまま分析をはじめてしまい、時間を浪費してしまう。このような無駄な調査・分析をしてしまうということがよく起こりえます。最短距離を走らなければならないとは言い切れないですが、論点が整理され、仮説があるというが、データ分析の基本であり、これが問題解決に繋がり、「命あるデータ分析」になると考えます。

f:id:massy535:20200402152222p:plain

図表:データ分析は課題解決の一部

例えば、ある時、私に投げかけられた宿題は、看護科から「うまく病棟コントロールをしていくために現状の病棟稼働状況を示してほしい」というものでした。これだけでは、どのようなデータを提供すれば良いのかわかりません。こちらが想像して出したデータが議論の助けにならないのであれば、提出する意味がありません。ですから、このご要望の背景には、どのようなことがあるのか、しっかりとお聞きしなければ、分析を進めることはできません。実際にデータを見ながら議論する際に、全くお役に立てないことになってしまうので、その背景にある「目的」をしっかりと聞き取ることが重要だと考えています。

とにかく、会議での論点が何なのかをディスカッションし、検証したい仮説(見たいデータ)は何なのかを整理することにしました。その時点では病棟コントロールがどうもうまくいかないという漠然とした課題であったため、論点を整理していき、必要となるデータの切り口を定めていきました。

もちろんデータのみで、解決できることはごく稀でそのデータをみて、どう次のアクションに繋がるのかという仮説が大事です。

また、他病院の同志の方々からデータ分析のご相談をされることがたまにあります。院内での課題があり、出したいデータは大体わかっているが、どうやって分析すれば良いか、といったような類いのものですが、意外にも、そもそも解く問題そのものが整理されていないことがあります。データを見て、次に起こせるアクションがイメージされていない場合があります。つまり、仮説がないということです。

そのようなデータ分析を出したとしても、結果として受け手も提供側も「で?」となってしまいますし、自分自身でも時間をかけた割には釈然とせずに、分析が活かされないということが起こってしまいます。

故に経営企画業務はデータ分析の前の論点整理と仮説設定が大事であるということが言えます。また、仮説を検証できる、データ分析スキルが必要なのはいうまでもありません。ですから、つまり全てが大事であるということが言えます。データ分析をする際にもっとも注意すべきなのは、「解くべき問題の設定が合っているか」ではないでしょうか。

 

2. ノンテクニカルスキル―問題解決力―

論理とマインドはセット

経営企画部門は、データ分析は受動的(依頼されて行う場合)に行う場合と、能動的に行う場合(自ら仮説に基づき探索的に分析する場合)の2種類があります。特に、能動的に行う場合には、その結果として取るべきアクショへ結びつける際には、細心の注意が必要です。データ分析によりわかった課題と施策をそのままステークホルダーに伝えるのは得策ではないと考えます。理屈がわかったとしても、その問題が当事者にとっての問題になるまで、待つ必要があります。または、働きかける必要があります。いきなり結論を押しつけては、せっかくの問題発見が台無しになってしまいます。

問題提起と問題解決策までは、少し頭を使えば、誰でも考えられることだと言えます。むしろ、重要なのは施策の『大義・目的』と『実行』です。何のためにその施策が必要なのかという問題意識が理解される前に結論と方法論を押しつけてしまいがちですがこれは、得策ではないですし、当事者からすると、にわかに受け入れられない場合があります。非常に難しい問題ですが、行動変容というのは当事者意識が全ての出発点であると考えます。当事者の課題であるという認識が芽生えるまで、何度もコミュニケーションを取る必要があります。データと当事者のあるのは単なる情報格差ですから、その格差を徐々に埋めていくことが肝要です。一度の会議で伝達したところで、すぐさま行動変容には繋がるとは限りません。むしろ、そのようなケースは希ではないでしょうか。

データ分析に基づく問題把握と解決方策は、実際に実行が伴わなければ、やっていないとの同じと言えます。施策とアイデアは、やってこそ、意味がある。そして、“トライ&エラー”の繰り返しが伴います。やってもないのに踏み出せない、ということも院内では多く起こりえることです。計画や検証に時間を費やしすぎて、前に中々進めない場合もあります。そのような際に、我々のような部門が伴走者となり、問題解決に向けてともに走行する必要があります。

私が特に問題意識を持っているのは、データ分析の提示だけに留まってしまう場合です。ややもすると、データを把握しているだけに過ぎないのに、高みの見物者になってしまうおそれがあります。これは非常に残念なことです。せっかくのデータ分析や施策案が無意味になってしまいます。問題解決方策は、最終的には行動に結びつかなければ意味がありません。私の中では、密かに「言っているのですが・・・」は禁句にしています。これを言ってしまうくらいなら最初からデータ分析をする意味はないと考えます。ですから、問題解決に向けた仮説をしっかりと、依頼者又は、自分たちで考察し、データ分析と伴走を行う準備を並行する必要があると考えています。

私の中では、データ分析と課題解決の実行はセットとして捉えています。経営企画部門は様々に思考を巡らしますが、自らが特定の範囲の明確な運営業務を担っているわけでありません。そのため、他部門との連携が欠かせない性格をもっています。ですから我々は課題解決までの伴走者たるべきと捉えています。

f:id:massy535:20200402152127p:plain

図表:真のデータ分析のイメージ

 場面にもよりますが、基本的には我々のような部門は、原則、黒子に徹し表に極力出ないことが望ましいと考えています。当事者は当該部門であり、我々ではありません。我々が答えをすぐさま提示することは得策とは言えません。当事者に当事者意識が薄れていき、施策に魂が宿らなくなってしまうからです。また、通常の人間関係の中において、相談者(依頼者)に対して一方的に論理を押しつけるということは普段はあり得ない話なのですが、経営企画部門というのは一生懸命、相手のこと、全体最適化を考えてしまうため、結果として、これが(理論の押しつけ)意外に起こりえてしまうことがあります。

例えば、あり得ない話ですが、結婚式のプランナーが「お客様にあった挙式プランはこちらになります!」と最初からデザインを押し付けてきたら、「何やこいつは!?」と感じると思います。

ラーメン屋に行って強制的に”カタめん”を選ばされたらムッとすると思います。私なら「”バリカタ”が良いったい」と、店員さんにカツを入れたくなります。

「そのような店はあるわけがない」と思われるかもしれませんが、経営企画業務は意外にもこれに似たようなことをやってしまいがちです。結論がわかってしまったなら、相手にそれを早く伝達したいと思いがちで、近道が逆に遠回りになる場合もあります。もちろん、ステークホルダーの事前情報の理解度や我々が受動的に行った分析なのか、能動的に行った分析なのかによっても結果への結びつきやすさには違いがあることは言うまでもありません。

経営企画部門の性として、当事者に対していきなり論理を提示してしまいがちです。本来はそうではなく、課題把握と仮説設定を共に行い、その時点で伴走者になる必要があります。課題把握からともに考えて、仮説検証をともにし、解決策をともに導くことが大切ではないかと思います。

f:id:massy535:20200404160017p:plain

図表:意味のないデータ分析と意味のあるデータ分析の違い

最後に

今回は、3回に亘り病院経営企画業務とはなにか?について論考しました。近年増えつつある病院経営企画部門、しかし、まだまだ中小規模の病院では設置されていないところがほとんどです。一方で、近年、経営企画部門的な事務職員を対象とした様々な資格が登場してします。歴史ある診療情報管理士をはじめとし、医療経営士、施設基準管理士、また、比較的歴史のある医療情報技師、医業経営コンサルタント(最近では病院勤務者もいらっしゃるようです)病院経営管理士等があり、病院事務職員としてのキャリアデザインも旧来よりは様々な道が開けています。

これからの病院経営を考えた時、「データをつくり」、「データ分析をし」、それをさらに「マネジメントに生す」、いわば病院経営の参謀になる人財が必要です。最近、様々な地域でこのような機運が高まっているように感じることがあります。全国のデータ分析担当者や経営企画マンが切磋琢磨できるような環境が切望されているのではないでしょうか。

また機会をいただければ、病院経営企画業務についてさらなる論考をしてみたいと思っています。最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

 

--筆者--
小塩 誠 (こじお まこと)
宮崎市郡医師会病院 経営情報課 主任 (認定登録 医業経営コンサルタント)
2009年関西大学社会学部卒業、民間企業を経て、2015年より現職。新病院の設計調整・運営計画・資金計画等、現病院の経営計画策定(BSC)・運営管理・DPCデータ分析 等を担当。