全3回にわたって経営企画の業務について話していく連載の第2回。
前回に引き続き「病院の経営企画業務とは何か?」について、実際にその立場にある私から内容をご紹介します。
宮崎市郡医師会病院の経営情報課に所属している小塩 誠(コジオ マコト) と申します。前回は一般論的な内容でしたので、今回は当院の話をさせていただきます。
当院の業務範囲
当院は、前回挙げた「専門型」に近い形態が取られています。当院の部署は、経営情報課という名称で、情シス係、病歴管理係、経営情報係からなり、事務次長が経営情報課長を兼ねて全体を統括しています。課の構成としては、「システム」と「診療情報」と「経営」がミックスした組織体制になっています。私は経営情報係に属し、3名体制です。うち私の上司である1名は新病院建設準備のための建設推進課を兼務しているため、現在は実質的に2名体制です。
院長との関わり
当院の院長は医師会長と兼務であり、ご自身の診療所も経営されており、極めてご多忙です。そのような中でも、中規模の当院は院長との距離は極めて近く、週に最低でも3回はお会いするチャンスがあります。昼休みにお見えになり、決済や職員の報告・相談に対応されます。我々からの経営分析・課題の報告等については、長い時で20分くらいのレク時間をいただくこともありますが、基本的には3~5分程度しか時間がありません。他の課題や決済も集中しているため、いかに手短に説明できるかが重要です。院長はデータに基づく意思決定を非常に重視されています。また、毎月の朝礼での訓示では、地域医療構想や中医協の動向、医師の働き方改革等、マクロ環境から院内の課題まで踏まえたコメントを頂きます。病院長の医療行政に関する情報収集は、極めて早いため経営情報課としても日々緊張感があります。
事務長との関わり
事務長は、院内外の様々なセクターを経てこられたいわゆる”叩き上げ”です。経済・財務に明るく、自らデータ分析も行われます。事務長と経営情報課との距離感は極めて近く、課題がある場合はすぐに相談ができる環境です。とくに、経営データを院内に開示することを恐れずにできるのは、事務長の指示と強力なバックアップがあるからです。適切な場面で適切なデータを開示していくことで、現場の医療者のモチベーションを落とすことなく、経営状況をお伝えし、何に気をつけなければならないかを、示すことができます。当院は、これまではあまり経営データを具に現場に提示することができなかったのですが、近年はむしろ重宝がられることが増えてきたように感じています。
また、「データ、理論」と「人の心」の双方に気をつけながら、議論を進めていくことの大切さを事務長からは教わりました。人には心があります。理論だけでは物事が進まないというのは、「Getting to yes:ハーバード流交渉術」や「Leading Change:企業変革力」でも言及されています。事務長と私との共通項は、ドラッカーです。古くていつまでも新鮮なドラッカーですが、当院の新経営計画では、事務長のご発案でドラッカーの著書、『イノベーションと企業家精神』のエッセンスが密かに盛り込まれています。
当部門トップとの関わり
直属の上司である、事務次長は、放射線技師であり当院に電子化をもたらした立役者です。医療情報室立ち上げ時に事務にコンバートし、臨床と医療情報と、DPCのわかるスーパーマンです。ITから経営、全てのことに詳し過ぎて、日々圧倒され、勉強させてもらっています。しかも、衰えを知らない学習意欲は誰も止めることができず、BI(Business Intelligence)ツール、ML(Machine Learning)等、今でも進化を続けられ、日々刺激をもらっています。私にBIツールや機械学習という武器を授けてくださったのも彼です。
当部門の特徴
当院経営情報課の環境の特徴としては、情報システムの管理を担っており、院内の様々なデータにアクセス可能な環境が整備されています。DWH(データウェアハウス)が整備されていないのが難点ですが、電子カルテシステム、医事会計システム、財務会計システムを中心に各種部門システムにアクセス可能です。また、DPC関連システムとしては、DPCベンチマークシステム、原価計算システムを導入しています。必要に応じて人事データも触ることがありますが、それは人事課が独自に管理しているものであり、必要以上の部分はマスクをかけてもらい、こちら側で分析を行うことがあります。
当院の経営情報課では以下のような業務があります。定型的な業務というよりは、経営に関することなら、あらゆる課題にチャレンジしなければなりませんし、そのような環境になっています。また、院長、事務長、事務次長(私の直属の上司)、各部門からのリクエストによりデータ分析を行います。その中でもある程度は型がある業務を列記してその概要をご説明します。
BSCマネジメント
経営分析結果と医師会病院のミッション、ビジョンを踏まえた病院全体BSC案の作成と部門別BSCの策定支援ととりまとめを行っています。経営戦略会議で議論、進捗報告を行っています。経営戦略会議の全体会議の開催頻度は、要職の方々が参席いただく会になりますので、四半期に1回と頻度は低いですが、各部門とのコミュニケーションの密度を高めることで情報格差を補完している状況です。経営戦略会議の全体会議は、院長のご意向で、病院理事と各部門代表者の全員参加型です。(医師会立病院なので、経営管理は医師会の理事(病院担当の理事)の先生方が入られています)
これまでの経営計画は財務一辺倒でしたが、目的と行動と一致させるためにBSCの導入を検討し、平成30年度からBSCを基にした新たな中長期経営計画がスタートしました。
外部環境分析
経営計画に用いる場合や随時、院長や事務長、次長からのリクエストに応じてDPCデータや病床機能報告、SCRなどを組み合わせて外部環境について把握をしています。内部データの定点管理から症例数の落ち込みが把握された際があり、マーケティング分析により外部環境の変化を整理し、対策を講じる、といったことをしています。とはいえ、マーケティングができているかというとまだまだの状況で、できている分野とできていない分野があります。今後の課題としては組織的なマーケティング活動を行うことです。今後は、自院の魅力を伝えるPR活動やホームページの刷新や広報誌の充実等が具体的な喫緊の課題になっています。
内部経営環境分析
財務分析、DPCデータ分析、原価計算、クリニカルパス分析、マーケティング支援、診療報酬対策分析、その他のデータ分析
- 財務分析をはじめ、DPC包括出来高差の分析、アウトライヤー分析、原価計算を行っています。診療情報管理士がアウトライヤー症例の分析結果を会議で報告しています。
- 原価計算の結果はクリニカルパス検討時に活用しています。例えば、医師の臨床的に理想的な在院日数とDPC期間との調整の際にDPC包括出来高比だけではなく、原価管理の面から適正な在院日数設定を検討したりしています。
- 財務指標の定点管理やから財務課題の把握を行い、更に分解して課題点を明らかにします。主に経営計画のレビューのフェーズです。
- DPC分析ではパスの作成見直しが中心になります。DPCデータのベンチマークソフトを用いて多病院のパスと比較し、改定、新規作成を支援します。
- 人事課や看護科の要請に対してデータに基づく人員配置計算を行うこともあります。
- 最近では、看護科の要請でHFileとEFFileの突合分析結果を毎月提供しています。これについては、優秀なベンチマークシステムに働かせて、EFファイルとの差分を看護科に提供して、漏れの修正を行ってもらっています。
- 紹介患者分析や訪問先検討の基礎データを分析し、地域医療連携室に提供しています。訪問先の選定や事前情報収集に用います。
- 診療報酬の各種の加算等の算定状況や届け出すべき施設基準について院内外から情報を収集し、医事課、現場とチームを組成し、算定向けた運用方法のフローを作成します。
- 病床機能報告、病院情報の公開等の若干複雑なデータ集計。
その他の企画業務
医師リクルーティング、その他の課題解決、補助金折衝、銀行借入折衝、各部署からのデータ抽出、分析依頼
- 人事課と連携し医師のリクルーティングを行っています。診療科新設が戦略的目標として掲げられているので、自力でリクルーティング活動を行い、採用へ向けて尽力しています。
- 新病院建設を控えており、地域医療介護総合確保基金、医療提供体制施設整備交付金等の補助金折衝を行っています。新病院に向けた補助金は概ね獲得できましたので、今後は購入及び実績報告等の細かな手続きフェーズに入ります。
経営戦略会議事務局
- 理事、各科長・部門長による全体経営会議の運営事務局を担っています。
- 院長、理事、事務長、事務次長等とともに不定期の事前の調整ディスカッションを行い、会の論点を整理しています。
最後に
今回は、一般的な病院経営企画部門の様相、当院の業務範疇についてご紹介しました。一般的な経営企画部門の業務範囲は本当に様々で定義のしようがないところがあります。是非ともわれこそはと思う方々には経営企画業務をHealthcare Compassにてご紹介いただきたいと願っています。
次回はもう少し具体的な経営企画部門の在り方について論じてみたいと考えています。
--筆者--
小塩 誠 (こじお まこと)
宮崎市郡医師会病院 経営情報課 主任 (認定登録 医業経営コンサルタント)
2009年関西大学社会学部卒業、民間企業を経て、2015年より現職。新病院の設計調整・運営計画・資金計画等、現病院の経営計画策定(BSC)・運営管理・DPCデータ分析 等を担当。
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