病院経営ウェブマガジン“Healthcare Compass (ヘルスケア・コンパス)”

Healthcare Compass (ヘルスケア・コンパス)。病院経営ウェブマガジン。病院経営の中でも急性期病院の経営・運営に携わる人のためのメディアです。

Healthcare Compass (ヘルスケアコンパス)

病院の経営企画業務とは?

今回は、「病院の経営企画業務とは何か?」について実際にその立場にある私から、その内容をご紹介します。

はじめまして、宮崎市郡医師会病院の経営情報課に所属している小塩 誠(コジオ マコト) と申します。3回にわたって経営企画の業務について話していきます。今回は、その第1回。

当院の概要は、以下の通りです。

施設名

宮崎市郡医師会病院(Miyazaki Medical Association Hospital)

開設者 / 管理者(病院長)

公益社団法人宮崎市郡医師会 / 同会長

所在地

宮崎県宮崎市

開設年

昭和59年4月1日

病床数

248床(ICU・CCU12床、NICU3床、緩和ケア12床)

入院基本料

急性期一般入院料1

診療科

内科(緩和ケア)・循環器内科・外科・心臓血管外科・整形外科・産婦人科・放射線科・麻酔科・救急科

職員数(令和元年7月末)

559名(医師50名・薬剤師11名・放射線技師13名・管理栄養士5名・臨床工学技士12名・理学療法士10名・検査技師28名・滅菌技士3名・看護師320名・看護助手40名・事務63名・医療安全管理4名)

 

病院の経営企画業務の概観

病院の経営企画業務とは?

『病院の経営企画業務とはどのようなことを行っているのか』について、実際にその立場に身を置く私から概要を説明させていただきます。詳しくは後述しますが、病院の経営企画部門の多くは、データ分析業務が中心となり、その他、組織内の事業所の管理や経営計画の策定、進捗管理等が主要な業務ではないでしょうか。病院の経営企画という仕事はごくごく最近できたものであり、これまでは、事務長自身で経営企画を一手に担う、診療報酬対策として医事課長が中心となって舵取りを行う、という昔ながらのスタイルで、今なおそのような病院が多いと思います。近年、電子カルテの普及やDPCデータ等の病院データの発展に伴い、経営判断に利活用可能なデータが揃ってきたため、データに基づいて意思決定を行う病院が増えています。

診療情報管理士の新業務指針においても「診療情報の活用に向けたデータ処理・提供業務」という項目が新たに入り、まさにいま、データを使って意思決定を支援するという病院事務職員のネクストステージが開かれようとしています。

 

病院経営企画業務のスタンスとは

経営企画業務は、病院経営におけるデータ分析の実践的なスキルはさることながら、その大前提となる経営企画業務の使命の理解が大切と考えています。データ分析は巧くいったとしても、その後に陥りがちなのは、意味のない分析になってしてしまうことです。私はこれを密かに「命なき分析」と呼んでいます。分析をする前に、「問題が何で」、「どのような答えを導き出さないといけないか」、「データによるその答えに基づいて、どう行動しなければならないか」が見えないものは、「命なき分析」です。分析業務後は必ず、「依頼者と伴走する」、また、「協力者を集め、組織の行動変容を促していく」、ことがセットであり、これが、”真の経営企画マン”のマインドセットではないかと考えています。

 

経営企画業務のスタイル

病院の経営企画業務は、業界全体としては未だ体系化されていません。そもそも中小病院では、経営企画部門が存在しているところは極めて少ないと感じています。そのため、実践的なノウハウもなく、どこの病院でも手探り状態であり、病院の経営企画業界は、いま、ジャングル状態です。大病院であれば、経営企画部門が設置されていないことの方が珍しくなってきたとは感じますが、逆に業務が分業されていて全体感が掴めないという課題もあります。

そのような中でも、病院経営企画の業務範囲を敢えて定義するならば、先述のとおりデータ分析を中心した業務と言えます。そして、中長期経営計画案の策定、経営会議の事務局予算策定・実績管理、加えて、原価計算やDPCデータをはじめとする各種院内データを用いた分析等、が主な範疇とされます。また、院長・事務長等の経営幹部からの調査・分析命令、その他、医師、各部門からの要請に応え、分析を行うことが、経営企画部門の役目となっていると考えます。

病院経営企画業務の対象範囲は、そのセクターの成り立ち、人材によってもまちまちですが、概ね以下のような陣容体制と業務があるのではないかと考えます(図表1)。

f:id:massy535:20200321151134p:plain
図表1:経営企画業務の範疇

 

経営企画部門の類型

以下、経営企画部門の類型について概説します。

1. 財務型(中長期計画・予実管理中心)

f:id:massy535:20200323103155p:plain

経理や財務担当の所謂、財務系から派生した組織形態で、公立病院に多い形態です。特に公立病院の場合は、中長期の経営計画(公立病院改革プラン等をはじめ)は必須であり、議会対応があるため財務面での経営管理は当然のこととして執り行われています。

公立病院特有の補助金(行政からの繰入金)の算入や建替や改修(建設改良)等を推進する上では、財務的な収支予測を中心とした中長期計画がなければ病院の存続計画が行政的に推進できないため、非常に緻密な計算が行われていることが多いです。

しかしながら、このようなセクターは、DPCデータや診療情報に明るくないことも多く、日々の経営課題への対応が分断されていることも良くお見受けします。診療統計データ等を用いた詳細なデータ分析は行われていない場合もあり、全体計画については、現場に浸透しない場合もあります。対外的に作っている経営計画が”戦略”として現場の動きと連動していない場合もあります。

2. HIM(診療情報管理士)型

f:id:massy535:20200323103222p:plain

診療情報管理部門に設置されたデータ分析チーム、または診療情報管理部門にデータ分析担当者が配置され、そのメンバーが中心となり主にクリニカルパス分析や原価計算、その他の柔軟な分析が行われています。まさに専門化集団といった印象を持ちます。

EVEやgirasol、MEDIARROWSといった、DPCベンチマークソフトが用いられることが多く、そのようなシステムを使って、DPC対応型のクリニカルパスの作成、診療報酬改定による包括診療行為点数に基づくクリニカルパス分析や見直しが行われています。先進的な病院では、クリニカルパスのバリアンス分析を行っているところがほとんどです。また、近年では財務的アウトカムのみならず、医療の質を評価しようという試みも始まっており、QI(Quality Indicator)の分析と改善活動(PDCAサイクル)に取り組んでいる病院も増えてきました。済生会熊本病院では早くからTQMセンターを設置し、医療の質の分析が組織的に行われているようです。

一方、このHIM型の経営企画部門は、財務的な大局観がない場合があり、経営全体が見通せないというウィークポイントを抱えていることがあります。そして、なによりも診療録管理体制加算の要件では、病院の経営・運営に関する業務は兼務させてはならないという縛りがあるため、所謂、経営企画業務全般に手を広げにくいという側面もあります。そのため、HIM型の経営企画部門は、データ分析界隈で留まらざるを得ないというジレンマがあります。

3. プロジェクト型

f:id:massy535:20200323103241p:plain
会計・HIM、医事課等から精鋭部隊を集結し、既存業務と平行してプロジェクト的に経営企画業務を行う場合もあります。会議資料の作成も各部署からの選抜メンバーが持ち寄るスタイルです。バランス感覚が非常に良いチームとなりますが、各人の持ち屋で仕事が進むため、一貫性のある統合的なデータ分析ができないデメリットもあります。さらに、会議へ向けた下打ち合わせに時間がかかる点も悩ましいところです。また、こういったセクターの場合、情報システム部門が入っていないためデータ分析に時間がかかることがあります。

4. 専門型

f:id:massy535:20200323103301p:plain

専門型は、少数チームで専任化されています。業務の殆どは、経営企画業務が本業です。当然、兼務もありますが、財務・診療情報・ITが揃い、全体感とディティールの分析がマッチしやすい体制です。先進病院では、院長や経営会議直下型の組織もお見受けします。院長の指示命令が直接、専任チームに届くようになっています。一方、この形態は一般には中々お見受けましせん。その理由としては、収益を生まない部門に投資する経営者の意思がなければ、到底ここまでのセクターにはなり得ないと思われます。

このようなセクターの場合、異動を定期的に行わないことが多いため、ノウハウが院内に蓄積・展開されにくいというデメリットもあります。また、組織・人によってはデータを武器に議論を展開していく部署のため、他部署との対立関係も危惧されます。

5. その他

経営企画部門の組織は病院規模によっても異なります。そして、課なのか部なのかでも違ってきます。部の場合は、その中に人事課、調達部門、広報部門が入っている場合もあり、その範疇は病院によって様々です。経営管理部門で、約40名の部下を抱える課長もいらっしゃいます。大きな病院であれば、これらの周辺セクターも経営企画部門として統合されていると様々な施策が連動して動けるため、非常に良い形ではないかと感じます。いずれにしても人事や調達、広報部が入っている”部”であったとしても、経営企画部の中にも経営分析やデータ分析に特化した、所謂、経営企画課が存在することにはなります。しかし、ここまでのセンター化はやはり大病院ではないと人的リソースが集結されないと思います。また、組織が大きすぎて結局は分業せざるを得ない業務量となります。そのため、一職員は全体を把握しにくくなります。

その他、医事課長が実質的な企画マンであり、診療報酬改定の対策を中心とする企画業務を中心とした、”孤独型”というのも存在しますし、小規模病院では、孤独型の典型例として、事務長オンリー型というのもあります。事務長オンリー型の場合は、経営戦略の立案・実行にはコンサルタントの力を借りている病院もかなりの数あると思われます。

 

経営企画業務の一般的な範疇

先述のとおり、経営企画部門は、成り立ちや人材背景によっても様々な形態があるため、”これ”と業務内容を定義するのが難しい分野ではありますが、一般的にはデータ分析が中心となり、経営計画の策定やマーケティング戦略、加算や管理料等の分析等が中心的業務ではないかと思われます。
理想的な姿は、院長や事務長の影武者として現場と伴走し、オペレーション改善を図る、様々な企画を立案し、現場とともに実現化していくというプロダクト開発視点の経営企画業務、ですが、現実は、そこまでのパワーを捻出できずに、データ分析や計画づくりに留まらざるを得ない状況もあるのではないかと推察いたします。

今回は病院経営企画業務の一般的な姿について、紹介してみました。他にも様々な形態や業務範囲があると思います。次回はより具体的な姿をお示しするために当院を実例としてご紹介致します。

 

--筆者--
小塩 誠 (こじお まこと)
宮崎市郡医師会病院 経営情報課 主任 (認定登録 医業経営コンサルタント)
2009年関西大学社会学部卒業、民間企業を経て、2015年より現職。新病院の設計調整・運営計画・資金計画等、現病院の経営計画策定(BSC)・運営管理・DPCデータ分析 等を担当。

 

続けて読みたい方は、こちら↓