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都立病院の独立行政法人化:実態と背景を調べてみました

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Healthcare Compassの小迫(コサコ)です。

2019年12月3日、病院業界を騒がすニュースが入ってきました。

東京都都知事が、都立病院を独立行政法人へ移行する方針を示しました。

東京都は2018年度、378億円を都立病院に赤字補填しています。今回表明した独立行政法人化の目的は、

安定的で柔軟な医療人材の確保や、より機動的な運営を可能とする

とのこと。

このニュースをきっかけに、改めて、都立病院がどのように運営されているのか?東京都はなぜ独立行政法人化しなければいけないのか?を調べてみました。

 

都立病院を運営する東京都病院経営本部

都立病院は、東京都病院経営本部という東京都庁内にある組織によって運営されています。2018年4月1日時点では、都庁第一本庁舎24階南側に本部が構えられています。

東京都病院経営本部は8つの都立病院を運営しています。また、それぞれ病院には以下の図の示された役割が与えられています。

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(参照:都立病院の役割 | 東京都病院経営本部

 

また調べてみて、私は初めて知りましたが、

対象範囲を原則として都全域(三次保健医療圏)あるいは複数の二次保健医療圏とし、主として急性期の患者さんを対象としています。 (参照:都立病院とは | 東京都病院経営本部

と、急性期に特化して運営されています。

それぞれの病院の規模をまとめてみました。

平成30年度実績 稼働病床数 延入院患者数 病床利用率 平均在院日数 延外来患者数
都立広尾病院 422床 113,825人 73.90% 11.1日 194,639人
都立大塚病院 462床 122,553人 72.70% 11.5日 222,125人
都立駒込病院 801床 219,474人 75.10% 13.8日 359,048人
都立墨東病院 729床 224,981人 84.60% 13.1日 327,653人
都立多摩総合医療センター 756床 241,144人 87.40% 11.8日 483,308人
都立神経病院 296床 86,775人 80.30% 22.0日 3,467人
都立小児総合医療センター 549床 148,664人 74.20% 14.7日 204,700人
都立松沢病院 890床 249,726人 76.90% 66.6日 127,050人

それぞれ、役割を背負った病院であることは理解しつつも、病床稼働率や平均在院日数を見ると、厳しい戦いが強いられているのはわかります。

この結果として、2018年度は378億円の赤字補填を都から受けることになったのでしょう。

 

入念な実行プランを持つ東京都病院経営本部

東京都病院経営本部は、「都立病院新改革実行プラン 2018」というマスタープランを作成しています。(詳しいPDFは、こちら。)

基本方針として、3つの視点と6つの戦略を掲げています。

f:id:massy535:20191207235410p:plain(参照:都立病院の新たな改革の推進に向けて | 東京都病院経営本部

このプランに対する結論として、以下の提言がなされました。

都立病院経営委員会報告(平成30年1月)では、都立病院が安定的な経営基盤を確立し、今後も担うべき役割を持続的に果たしていくためには、現行の経営形態では運営上の課題があり、その見直しについての検討が必要と指摘されました。その上で、一般独立行政法人が制度的に最も柔軟であり、今後の都立病院にふさわしい経営形態であるとの提言がなされています。(参照:迅速かつ柔軟な病院運営に向けて | 東京都病院経営本部) 

マスタープランの中を読むと、今後の東京都の人口動態、疾患構成の変化を予測した上での6年間の計画です(2018年度〜2024年度)。

これを読む限り、都立病院は独立行政法人化することで、都立病院が果たす役割を着実に推進できそうです。

 

独立行政法人化の背景

では、持続可能な経営基盤を整え、都立病院の担うべき役割を果たすために、どうして独立行政法人化が必要なのでしょうか?

一足早く独立行政法人化した神奈川県の県立病院の資料を抜粋しながら、その必要性を見ていきたいと思います。

神奈川県の県立病院は、地方自治法や地方公務員法による制約が大きな課題と見ていたようです。

実際に上記のホームページを見てみると、以下のような制約とそれによる課題が。

  制約 現状
人事、定数、組織関係 地方公務員法に基づく人事委員会制度の下での採用手続 薬剤師や診療放射線技師等について、採用までに1ないし2年を要するケースがあり、医療環境の変化に即応した職員の採用が困難
県の行政システム改革基本方針(平成19年7月)や国の集中改革プランに基づく職員定数の制限 手厚い看護を評価する7対1看護基準への対応が困難。がんセンター総合整備等を実施するための医師、看護師等の増員が困難
地方公務員法に基づく知事部局中心の人事・給与体系 現在は、事務職員の平均在所属年数が3年4月であり、診療報酬制度や病院経営に精通した事務職員の養成・配置が困難
服務関係 地方公務員法による職務専念義務、県と同様の取扱いによる海外出張の自粛 学会や研究会への参加については、地方公務員法上の制約(職務専念義務)等があり、海外で行われる学会など有益であるにも関わらず参加することができないケースや、職員が休暇を取って参加せざるを得ない場合がある。
財務会計関係 地方自治法による予算単年度主義 原則として、予算単年度主義であるため、医療機能の充実に必要な医師、看護師等の職員体制の確保や病院施設、医療機器の整備を中期的な視点から実施することが困難
地方自治法による長期契約の制限 現行では、長期契約が可能なものが、医療事務業務、臨床検査業務、患者給食業務等に限定されているため、清掃や空調等の院内管理業務、カーテンやおむつなどの消耗品のリース、購入において、長期契約を締結できず、安定したサービスの提供を受けたり、発注規模の拡大によりスケールメリットを享受することが困難

独立行政法人化することによって、以下のメリットがあります。

  • 採用のスピードの向上
  • 7対1看護基準への対応(収益増加)
  • 事務職員のプロパー化による、専門性の向上(診療報酬への適切な対応など)
  • 学会への自由な参加によるモチベーション向上・人材獲得
  • 予算を単年度主義から、中期計画に基づくものに変更
  • 外部業者の見直し(長期契約が可能に)

上記6つが制限された状態で、公立病院は経営されていることを改めて認識しました。ただでさえ、経営の打ち手が少ない中で、これだけの制約があれば赤字病院が多くなるのも当然です。

地域へ医療を提供し続けるための経営基盤を整えるという意味で、独立行政法人化というのが適切な打ち手と理解できます。

 

まとめ

今回は、日経新聞のニュースをきっかけに、都立病院がどのように運営されているのかの実態と、なぜ独立行政法人化しなければならないのかの背景を調べてみました。

実態として、

  • 都立病院は、東京都病院経営本部という東京都庁内にある組織によって運営されている。
  • 病床稼働率や平均在院日数を見ると、厳しい戦いが強いられている。
  • 2018年度は378億円の赤字
  • 「都立病院新改革実行プラン 2018」というマスタープランをもとに、独立行政法人化を都に提言。

背景として、

  • 地方自治法や地方公務員法による制約が大きな課題。
  • 採用の人数やスピード、給与体系に自由度がなく、学会への参加も制限がある。さらに、予算の面での中期的な投資ができない。

とまとめることができるでしょう。

繰り返しになりますが、独立行政法人化すれば、

  • 採用のスピードの向上
  • 7対1看護基準への対応(収益増加)
  • 事務職員のプロパー化による、専門性の向上(診療報酬への適切な対応など)
  • 学会への自由な参加によるモチベーション向上・人材獲得
  • 予算を単年度主義から、中期計画に基づくものに変更
  • 外部業者の見直し(長期契約が可能に)

を達成できるようになります。

実際の「都立病院新改革実行プラン 2018」のサマリーのページを読むと、具体的に取り組むべき課題も示されています。以下を表を読むと、神奈川県立病院の独立行政法人化のメリットと東京都病院経営のマスタープランがとてもリンクしていることがわかります。

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(参照:「都立病院新改革実行プラン2018」の事業体系 | 東京都病院経営本部

 

働く人によっても、地域の医療を享受する人にとっても、経営基盤を整えることは基本のキ。

病院経営に携わるものとして、今回の東京都の独立行政法人化によって、より良い医療を都民に提供できるようになることを祈っています。

 

--筆者--
小迫 正実 (こさこ まさみ)
高校生で訪れたフィリピンのスラム街での体験から、人の命に関わる分野から経済を動かし、世界を変えたいというビジョンを抱く。
2012年慶應義塾大学卒業後、聖路加国際病院で医療の質を司るQIセンターの立ち上げに従事。分析業務から、データ×ITに課題解決の糸口を感じ2014年にヤフーに転職。広告データ事業に関わる。並行して一般社団法人Healthcare Opsを2017年に設立。2018年には公衆衛生修士をリバプール大学のオンラインコースで取得。2019年より亀田総合病院経営企画部に転職し、病院のデジタルトランスフォーメーションに従事。