こんにちは。都内のヘルスケアベンチャーでプロダクトマネージャーをしている有村です。
今回は、2019年10月26日(土)に開催されたHealthcare Venture KNOTに参加してきたので、イベントレポートを書こうと思います。
Healthcare Venture KNOTとは?
キャピタルメディカ・ベンチャーズというVC(ベンチャーへの投資会社)と、SHIPという医療ITのコミュニティが共同で開催している、ヘルスケアビジネスのコンテストです。
「医療者とヘルスケアベンチャーを結ぶ」というコンセプトのもと、今回が2回目の開催になるそうです。
イベントプログラム
以下、名称は違いますが当日のプログラムです。
- 超アイデア部門
- アーリー、ビジネスプランコンテスト部門
- エキシビジョン部門
本記事では、アーリー部門に絞って概略と、筆者の個人的な感想・見解をまとめたいと思います。
アーリー部門
株式会社ゼスト
在宅医療の人手不足を改善する為に、在宅医療のスケジュールを最適化し、経営を改善する為のSaaSであるZESTを提供している。
取り組む課題
- 訪問看護の領域はとにかく人手不足の領域である。
- 厚生労働省の推計によると、2025年度には日本国内の介護人材は約34万人も不足すると言われている。
- 人手不足の背景にある、訪問看護の非効率性に目を向けると「移動時間」「稼働率」の2つの課題がある。
ソリューション
- ZESTでは、この訪問スケジュールの作成自動化・効率化および移動時間の最適化をする事で、経営改善の後押しをしている。
- 1ヶ月のスケジュールを作成する場合、通常40時間程かかるが、ZESTを使えば100分程に短縮できる。
- 経営の効率化が果たせた結果、売上も1.3倍 ~ 2.0倍になったとのこと。
- 従業員も残業時間が減ったり、担当性からチーム性への移行も進められた事による業務負担緩和、移動時間の削減などにより、従業員満足度も上がっているとのこと。
- スケジュールの自動作成・最適化には独自技術が使われており技術的優位性があるとのこと。
市場性
- 国内にはおよそ71,000の訪問看護事業者がいる。
- 市場規模はおよそ1,300億(根拠は追いきれなかった)
感想
- 創業31年の会社(おそらく今まではシステムベンダー)が急に事業会社に転換した例で、31年も会社をやり続けているのはすごい。
- 訪問看護に限らず、医療領域でのスケジューリングの最適化は様々な面で求められるソリューションだと思うので、応用活用はいろんな場面でできそう。
- 経営改善まで効果を示せているのはとても素晴らしい。
- しかしながら、技術的な背景が今回のプレゼンテーションの中では見えなかったので何がZESTとその他の事業者との差別化要因になるのかが、良くわからなかった。
- 早めにデザイナーさんの手を入れた方が良いと思う。
株式会社エブリ・プラス
介護施設と外の世界を繋ぐ、SaaS型プラットフォーム”レクリエーションマッチングサービス”を展開
取り組む課題
- 介護施設で入居者が過ごす時間のおよそ半分はレクリエーションなどの時間である。
- しかし、介護施設の職員は時間がなく十分に満足できるレクリエーションを企画・実施できているわけではない。
- 業界全般的に介護施設におけるレクリエーションプログラムの提供というのは一定のニーズがある。
ソリューション
- エブリプラスは、レクリエーションプログラムの提供者と個別に契約を結びおよそ300種類のプログラムを提供。
- 単なるプログラム提供者とは異なり、多くの種類のプログラムを提供できる為、マンネリ感が生まれることがない。
- 基本は月額定額制で施設と契約を結んでいるが、追加でプログラム提供する場合は施設および入居者から支払いを受けてプログラムを提供している。
- 月額2万円 ~提供。
- 現在は60施設に導入しており、90施設に伸ばすのを目標に今期は進めている。
市場性
- 介護施設向けの市場だと600億
- 高齢者の娯楽・教養のマーケット全体で考えると1兆円の市場規模がある。
今後の事業課題
- プログラム提供者の確保や施設への導入は地域性があるのではないか。そうした時のマーケティングプランがこれから必要か。
- 大手が入ってきた時にサービス提供者を引き抜かれないようにする為のアライアンスを組むなどの参入障壁をどうやって築いていくか。
感想
- これまで介護施設へのプログラム提供者は何社か見てきたが、プラットフォームとしてサービス提供をしている所は珍しく、うまいビジネスだなと感じた。
- SEOが致命的に見える。エブリプラスというサービスが三井住友Visaカードのプログラムの中にあるらしく、普通に名前だけで検索してしまうと全く検索上位に上がってこない。
- 現状は本社のある愛知を中心に事業を展開しているとのことだが、今後都市部以外で展開をする際のサービス提供者を安定的に供給し続けられるのかというのは疑問に感じた。
アトピヨ
アトピー患者の為の、症状共有SNSであるアトピヨを運営している。
取り組む課題
- 国内に約600万人の患者がいる
- アメリカだと2,700万人、中国だと数千万人の患者数がいると推定。
- アトピーによる経済損失(?)は国内だけで約746億円と言われている。
- アトピー患者の約13%が死にたいと思ったことがあるほど、症状が重い人にとっては強い悩みのタネとなる。
- 患者同士での悩みの共有や、治療方法・生活の工夫の共有はとても重要。
ソリューション
- アトピー患者向けのSNSを展開(現在はiOSのみ)
- リリース後、約1年でユーザー数は9,000人。症状の写真は9,700枚が集まっている。
- アトピヨアプリの中では、症状の記録や悩みの共有をすることができる。
- 悩みの投稿に対して、様々な励ましコメントがつくので、その投稿に対する返信の中ではユーザーのネガティブコメントが減っているような効果が出ている。
- 競合にはUnticleのようなアトピー症状のSNSがあるが、写真投稿が出来るのがアトピヨの強み。
市場性
- まだマネタイズ等は行っていないが、今後は製薬企業などと連携しながら治験情報を提供したり、症状の画像データを提供するなどしてビジネスを展開していきたい。
今後の事業課題
- 審査員のコメントにもあったが、コミュニティサービスでビジネス展開を始められるのは、おおよそ全体の1割を握れるようになってから。そう考えると600万人のアトピー患者のうちの60万人をSNSに囲い込めるようにならないといけない。
- コメントの中では60万人を囲い込めるようになるのは5年後という想定。
- 患者同士でエビデンスに基づかない情報が行き交っていまった場合に、治療を中断して症状が悪化してしまうような例が出ないように、仕組みとして安全性を担保していく必要がある。
感想
- 会社という形でやっているのではなく、まだ個人開発に近い状態だがここまで業界注目度を高めているのはすごい。
- しかしながら、疾患コミュニティを運営していくためには、開発体制やモニタリング体制の構築を進めていく必要があり、どこかで資金調達をしていく必要性があるのではないか。
- 患者側のペインが強い疾患における患者コミュニティは昔からニーズが強いがなかなかビジネスとして成立させづらい領域でもある。
- 業界全体でそうした課題に取り組んでいくためにも、アトピヨのチャレンジは引き続き注視していきたい。
株式会社ファーマクラウド
医薬品流通の非効率性を無くす為の、在庫管理・出品システムのMedShareを展開
取り組む課題
- 薬局経営をする際に医薬品の不動在庫問題が課題になりやすい。
- 年間で100億円ほどの医薬品が無駄になってしまっている現実がある。
- 薬局間で不動在庫となっている医薬品をシェアして、医薬品廃棄の無駄を無くし、薬局経営自体も手助けしていきたい。
ソリューション
- 在庫管理および不動在庫の出品システムであるMedShareを提供
- 前年度実績として、1,800万円分の医薬品が出品され、1,000万円分の医薬品が購入された。
- 毎月1回調剤データを登録してもらうことにより、自動で出品リストを作成している。
- 医薬品の流通価格は業界平均として40%引きというラインがあるので、それに適応した価格設定をしている。
- マーケティングとしては医薬品卸と協業してサービスを薬局に紹介してもらい、展開を進めていっている。
市場性
- 医薬品の2次流通を支援していくことにより不動在庫市場自体は縮小していくだろうが、それまでに薬局にシステムを入れていく事により面を抑えていきたい。
- そこから別のシステムに繋げて、別の事業を展開していけるようにしたい。
事業課題
- 薬局にシステムを入れることは、ITに対するアレルギー反応のようなものもあり、なかなか一筋縄でいかない部分がある。
- マーケティングをどうやって進めていくのか。
感想
- 審査員のコメントにもあったが、このサービスがなければ薬局は困る!というものなのかどうかという点が気になった。
- すでに薬局間での医薬品在庫リストを共有するシステムはいくつかあり、そうしたシステムとどういった点に差別化ポイントがあるのかが気になった。
- 薬局向けのSaaSだとカケハシのMusubiが有名だが、カケハシの事業展開がとても参考になる例だろうなと感じた。
全体を通して
イベントには様々な立場の方が参加されていて、少しずつヘルスケアコミュニティが広がっていることを実感しました。
今回紹介したアーリー部門以外のサービスプレゼンの場もいくつかありましたが、共通しているのは課題の掘り下げ方によってソリューションのインパクトが違うなという点です。
技術的優位性を持っている企業はあまり多くなく、ソリューション自体は一般的なものが多いのだと思います。しかし医療・ヘルスケアという市場の特性上、課題を適切に分解することが出来れば、とても強いニーズがあり一般的なソリューションであっても途轍もないインパクトを発揮する事があるのだと思います。
こうしたコミュニティを盛り上げるようなイベントの場が継続して開催される事により、これからもっともっと日本のヘルスケアベンチャー業界が盛り上げっていくのだと思います。
主催者の方々、登壇者の方々ありがとうございました。
--筆者--
有村 琢磨
鹿児島県出身 1991年生まれ
立命館大学薬学部の卒業前に名古屋のヘルスケアベンチャーの創業期にCTOとして参加。健保向けサービスのプロダクト開発や開発組織の立ち上げを経験。現在は東京のヘルスケア企業でプロダクトマネジメントを担当。