病院経営ウェブマガジン“Healthcare Compass (ヘルスケア・コンパス)”

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Healthcare Compass (ヘルスケアコンパス)

医療ベンチャーで活躍できる医療従事者とは?

はじめに

初めまして。都内のヘルスケアベンチャーでプロダクトマネージャーをしている、有村です。

私はこれまで、乳がんの治療管理に関する会社の立ち上げにチャレンジしたり、名古屋のヘルスケアベンチャーの会社の立ち上げをCTOとして経験してきました。現在は都内のヘルスケアベンチャーでプロダクトマネージャーとして働いています。

生活習慣病などの慢性疾患の管理のサービスやがんなどの長期的な治療管理に関するサービスの立ち上げを経験しながら、様々な医療従事者の方と一緒に仕事をする機会がありました。

昨今、日本のヘルスケアベンチャー市場が徐々に盛り上がってきています。同時にヘルスケアベンチャーに転職したい医療従事者の方もとても増えていると思います。業界が盛り上がる一方、医療従事者と医療ベンチャーの期待には大きなギャップがあると私は感じています。

そのギャップを、「ヘルスケアベンチャーで活躍できる医療従事者とそうでない人の違いは何か?」というテーマにして、整理してみようと思います。

私の経験上、医療現場で働いている医療従事者がヘルスケアベンチャーに転職し、すぐに活躍出来る可能性は残念ながらあまり高くないと考えています。

理由はいくつかありますが、一言で表現すると「医療従事者は医療従事者であってビジネスパーソンではない」ということに尽きます。

決して医療現場で働く医療従事者の方達を卑下するような意図はありません。ただ普段働いている医療現場と医療ベンチャーの環境が大きく異なっているという背景を十分に理解する必要はあります。

この「医療従事者はビジネスパーソンではない」という言葉は具体的にどのような状態を指しているのでしょうか?

逆に医療従事者の方は、どうすればベンチャーで即戦力として活躍できるビジネスパーソンになる事が出来るのでしょうか?

本記事では、6つの視点で整理してみます。

  1. 企業を選ぶ
  2. 職種の再定義
  3. 顧客理解
  4. 課題に気付く
  5. 価値創出
  6. 倫理観

自分の置かれている環境の構造を理解しつつ、今の環境で求められている仕事は何か?ということを意識しながら、自分の職種を再定義しつつ働けると活躍できる可能性が高まるのかもしれません。

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1. 企業を選ぶ

医療従事者出身のメンバーが活躍しやすい企業をどのように選ぶべきでしょうか?

まず、一般的な民間企業と医療機関とでは取り巻く人材市場環境が全く異なっているという事から再確認していく事が重要です。転職を検討されるときは経営層やマネジメント層に医療従事者出身の方がいる企業の方が、より期待している仕事が出来る環境がある可能性が高いでしょう。

 医療機関の場合、病院の施設基準としてある程度の医療従事者を採用・配置しておく事が求められるなど、特定の職能・資格を持った医療従事者を雇う事自体が直接病院経営に影響を与えます。

一方で民間企業が医療従事者を直接雇用するのは経営上大きなリスクとなる事を、一人のメンバーとして理解しておく必要があります。

 製品の流行り廃りのサイクルが早い現代では、企業が取り組む事業領域の移り変わりは早くなってきています。

つまり、医療従事者を採用すれば、取り組む事業領域を医療で固定化するという大きなリスクになります。したがって、企業は場合によっては医療従事者を正規雇用ではなく、業務委託で済ませる場合も多いでしょう。

だからこそ注目すべきは、経営層や採用権限を持ったメンバーに医療従事者出身の方がいる企業です。

個人的な経験から医療従事者を正社員として雇う傾向が高いのは、医療従事者が起業した企業だと考えています。そうした企業の場合、そうで無い企業よりも医療従事者の役割が明確に定義されている事が多いでしょう。

採用の場でのジョブディスクリプションや実際に働いていて活躍しているメンバーの話を色々と聞いてみると、自分が入社した時に期待している仕事が出来るかどうかを見極めるのに、参考になる点を見つけられるかもしれません。

 

2. 職種の再定義

医療機関からベンチャーに入社したのち、元々の医療職種通りの仕事をする人はほとんどいないはずです。医療コンテンツの制作・監修、サービス開発、セールスなどなど、これまでの経験を活かしつつ別の職種へのジョブチェンジを伴う場合が多いでしょう。

そうした場面において重要なのは、医療従事者の資格や職能を一般化して捉え、企業で求められる職種・スキルとして再定義・再構築していく姿勢です。

企業や事業領域によって違いはありますが、自分の日々のアクションから生まれる価値を、自分自身で定義・発見していくことが必要です。

ベンチャー創業期の場合、ほとんどの企業が仕事をルーティン化出来ておらず、とにかく手を動かしながら最適解を見つけていく事が求められます。

その中で、事業を成長させ仕事のルーティンワーク化が出来ていけるようになると、後進の医療従事者出身のメンバーにも道を広げていくことになるでしょう。

そのためにも、職種・スキルとして再定義・再構築が大切になってきます。

 

3. 顧客理解

病院で働く医療従事者の方達は、誰よりも日常から患者さんに接する機会の多い職業です。その為、誰よりも患者さんの事を理解している方達と言えるかもしれません。

しかし、医療ベンチャーに転職する場合、顧客理解の認識を改める必要があります。

例えば、なぜそのサービスにお金を払うのか?という点において医療と一般企業は様々な違いがあります。そもそも、今の医療機関だけでは解決できない課題を一般企業が解決しようとチャレンジをしているはずです。

病院で培ったものの殆どは使えないかもしれないという気持ちを持って、ユーザーの課題に向き合う姿勢が求められる事になるでしょう。

療職に限らず、どんな職業においても、ユーザーの事を誰よりも理解しているという過信は命取りになります。ユーザーの事を知っている事と、ユーザーの課題を理解している事は明確に違いがあります。

また、その課題を理解してビジネスにつなげる事は、更に大きな違いがあります。

自分の経験に過信せず、常に場面に応じたユーザー像をアップデートし続け、そのユーザー像をチームで共有し、ビジネスにつなげていく努力が常に必要です。

 

4. 課題に気付く

とある有名なVC(投資家)の言葉に
「良い課題とは、見つけるものではなく、気付くものだ」
という言葉があります。

目の前に起こっている不可思議な事を当たり前だと受け止めず、常に何か変えられる部分は無いのか、困っている人はいないのかと考え続ける事で日々の「気付き」を増やしていく事ができます。

恐らく、医療機関ではシステムや働き方などは固定化されており、そもそも変えられる対象として認識される事が少ないのではないでしょうか。

サービスにおいては、顧客のためにより価値を出せないのか?という視点や、企業内部でのコミュニケーションや日々のワークフローをもっと効率化&付加価値をつける事で事業の成長に貢献できないかという視点を持ちつつ、日々の不便さに「気付けるか」はとても重要です。

特に医療従事者出身の方として

  • 医療現場の非効率性
  • 患者の課題

の2点での課題に気付くことが出来れば、ほかの純粋なベンチャーのメンバーとは違う価値を発揮できるのではないでしょうか。

 

5. 価値創出

ベンチャーで即戦力として活躍する人材を一言で表すなら「価値を創出できる人」です。

人の価値創出には、ギャップを埋めるタイプとビジョン追求タイプの2つがあります。

ギャップを埋めるタイプとは、正常な状態と現状を比較した際にギャップを見つけて埋める事によって正常な状態に戻すパターンです。

ビジョン追求タイプとは、現状よりもより良いものを提案し作り上げるパターンです。

2種類を考えると、通常の医療機関での役割はギャップを埋めるタイプの価値創出がほとんどかもしれません。(疾患や体調不良をどう治していくのかという点において)

しかし、一般企業においてより求められるのはビジョン追求タイプの価値創出だと感じています。

例えば、既存のヘルスケア企業において、ほとんどの場合医療職の方に求められるのは、医療に関する知識をソフトウェアやWebサービス、医療機器などの製品に落とし込む力か、医療知識を活用したコンテンツを生み出す力です。

つまり、医療知識を活用して「製品・サービス」か「コンテンツ」を生み出す力があれば、どんな企業に行っても活躍出来るでしょう。

 

6. 倫理観

最後に、抑えるべきは、倫理観です。

医療機関での経験を積んだ医療職の方が一般企業で働く上での強みの1つは、間違いなく医療への倫理観です。医療・ヘルスケアに関わる仕事は影響度の大小を問わず、人の人生や命に関わる仕事をしていると考えています。

個人として様々な医療関連ベンチャーやヘルスケア事業に取り組む企業の方とお話する事がありますが、ごく稀に「この人達は本当に医療・ヘルスケアに関わる資格のある倫理観を持った方なのかな?」と疑いたくなる瞬間があります。

他社の事をとやかく言うつもりはありませんが、少なからず「日本の医療に悪影響を与える価値観」を持った層がいる事は疑いようのない事実だと思います。

一方で、医療機関でしっかりと経験を積んだ医療職の方達は通常のビジネス環境にいる方達よりも厳格な倫理観を持って仕事をしている方がほとんどだと思います。

学生の頃にきちんと医療倫理の授業を受ける機会があったかどうかも思っている以上に大きな意識の差があるかもしれません。

医療職のメンバーとして大きな強みになるのは、企業やサービスが進むべき道を踏み外さないよう、倫理観に基づいた指針を示し、医療として社会的意義を見出すの力です。

 

最後に

改めて、ヘルスケアベンチャーで活躍できる医療従事者とそうでない人の違いは何か?を考えると、まずは医療従事者出身のメンバーが活躍しやすい企業を選ぶ事が最も重要なポイントの1つであると言えるでしょう。

その上で、日々の生活やワークフローのなかで気付いた課題に対して、自分なりの解決策を示し実行できるかどうかが、即戦力として活躍出来るかどうかの分かれ目になっていく事でしょう。

そしてその土台には、自分自身の職種を再定義していく努力と、医療従事者出身者としての倫理観を示し続ける姿勢が不可欠です。

日本のヘルスケア市場は大きな変革点を迎えようとしています。2025年問題を中心に、あと数年で大きく医療に関わる社会情勢が変化していくからです。

特に2024年前後に行われる医療保険・介護保険の報酬改定は医療・ヘルスケア市場に大きな影響を与えることになるでしょう。

また、オンライン診療や遠隔服薬指導、医療用医薬品のオンライン販売・配達の本格解禁の有無も、市場の変化に大きな影響を持つことになるでしょう。

そうした変革点を前にして、ますます既存の医療機関外で働く医療職の方の役割は大きなものになっていくと思います。

正しい医療倫理感を持った企業が、ユーザーおよび社会にとってより良いサービス提供をしていく事で、日本の医療がより良いものになっていくと信じています。

そのためにも、もっともっと日本のヘルスケア市場をより優秀な医療職の方達と一緒に盛り上げていけると嬉しいですし、今回の記事が少しでもそうした事に向けての良い刺激になれば幸いです。


--筆者--
有村 琢磨
鹿児島県出身 1991年生まれ
立命館大学薬学部の卒業前に名古屋のヘルスケアベンチャーの創業期にCTOとして参加。健保向けサービスのプロダクト開発や開発組織の立ち上げを経験。現在は東京のヘルスケア企業でプロダクトマネジメントを担当。