病院経営ウェブマガジン“Healthcare Compass (ヘルスケア・コンパス)”

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Healthcare Compass (ヘルスケアコンパス)

赤字病院支援は、債務対応と費用削減のアドバイスでいいのか?

Healthcare Compass編集部です。

2019年7月下旬、気になるニュースがTwitterで流れてきました。

記事を抜粋すると、

日本政策投資銀行や三井住友ファイナンス&リースは民間病院の経営支援を目的とするファンドを立ち上げる。ファンドが受け皿となって過剰な負債を病院から引き取り、コンサルティング会社による経営指導もする。国内の病院のうち5割強が赤字に陥っており、支援で経営状況が改善すれば地域医療の維持に役立つ。

記事を要約すると、
三井住友ファイナンス&リースが、支援が必要な病院を洗い出し、日本政策投資銀行が支援したファンドで債権の買取を行い、 病院の債務返済を軽くする。そして、日本経営が、業務の外部委託費や資材調達の見直しをアドバイスするそうです。

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このニュースを見て、違和感を感じました。

この方法で赤字病院を支援するのが適切なんだろうか?

ニュースを深堀りするため、病院経営に興味のある若手コミュニティー「アンダー1Q85会」で議論することにしました。アンダー1Q85会は、昭和60年生まれ以降で病院経営に興味を持つ人達がオンライン上に有志で集まっているコミュニティーです。

「赤字病院支援は、債務対応と費用削減のアドバイスでいいのか?」という議題に対して、9人でディスカッションしました。 今回は、話し合った内容のエッセンスを記事にまとめました。

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そもそも赤字病院ってどのくらいあるの?

一般社団法人 日本病院会、公益社団法人 全日本病院協会、一般社団法人 日本医療法人協会の3団体の合同調査で、1,000病院以上にアンケートを取った結果を見てみましょう。(参照:https://www.ajha.or.jp/voice/pdf/keieichousa/h30keieichousa.pdf)、

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調査結果によると、59.7%の病院が赤字であることがわかります。また、一口に病院と言っても、病床数や機能、設立母体も様々。

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これらに対して、支援が必要な病院の洗い出しを三井住友ファイナンス&リースが行い、日本政策投資銀行が支援したファンドが債権を買い取り、日本経営を費用削減の支援する、というのは一筋縄ではいかないでしょう。

さらに、過疎地域で頑張っている赤字病院と、経営が下手な赤字病院では全く別物です。ニュースからは読み解けませんでしたが、「赤字病院への支援」にも判断基準が必要です。

この状況で、ひとつひとつの病院に対して精査して介入していく支援で、良いのでしょうか?

 

複数病院の支援 もしくは 地域全体で支援できないのか?

私達が考える赤字病院のファンドの理想の在り方は、一病院単位ではなく、地域全体支援するものです。一病院単位で経営を最適化した場合、どうしても地域の人口や病床を見たときに明らかにいびつになりかねません。このファンドが個別病院に資金投入して一時的な成功を収めたとしても、継続的な地域の医療を支えるのが難しい可能性があります。

もちろんファンドが赤字病院へ援助を行うのは、一定のお金を稼ぎ、返すという運用ができるからです。

ただし、マクロ的に考えると本質的にやらなくてはいけないのは、厚生労働省の病床機能報告に基づいた病床再編を断固として国側から行うように医療機関を納得させる行政側の人材集めと、再編だけでは見込めない不足病床機能の早期立ち上げへの投資でしょう。

 

黒字化の難しさ

さらに私達は、「もし自分が病院内部で赤字病院支援プロジェクトを担った場合、黒字化に向けて、どのような打ち手があるか」について議論しました。

病院を買収など拡大して売上を伸ばす方法と、病院を縮小してコストを下げて効率化していく方法があります。

今回は、ニュースの中の「費用削減のアドバイザー」という存在がいることも加味して、コミュニティー内では病院縮小案について議論しました。案は大きく2つ。

  1. 一病院単位での診療科削減
  2. 一病院単位での病床削減
病院縮小案の前提

赤字病院は、売上をそのままにして費用削減すれば収益が改善されるかというと、そんな単純なものでありません。

診療科が得ている収入が、変動費と医師給与費の合計より多いケースは少ないのが現状です。つまり、総合的にコストを同時に減らさないと赤字は増える。「選択と集中」を実行しないと、持続可能な経営は難しいのです。

2つの黒字化に関する議論は、多くの意見が出ました。ここでは、議事録をそのまま掲載します。

一病院単位での診療科削減について
  • 産科・小児や救急車の受け入れなど、経営判断よりも地域として絶対に必要になる診療領域も存在する。政治的判断で中止にできない地域もある。
  • 「診療科の集約」(≒地域内での各病院の役割分担)を多く取り入れるべきではないか。
  • 「診療科の集約」という意見について、集約のあるべき姿がうまく想像できていない。『病院のM&A』は、勝ち組が負け組のうまいとこだけ持ってくようなイメージしか湧いてこない。経営者も働く人も患者も集約を望んでない気がするが、M&Aせずに個々の病院が独立採算のまま最適化することは難しいのか。
  • 減価償却を考えると、診療科を絞ってベッドはできる限り減らさないのが第一の選択肢と思う。絞られた診療科は患者数の多いメジャー科が中心となると思われるので、○○に強い病院として地域での立ち位置を明確にする。診療科を絞ったことで受け入れられない患者の送り先を予め決めておくことも重要であり、近隣病院次第ではあるが、場合によってはマーケット内で棲み分けて手を組める病院を作れるかもしれない。
  • 診療科を削る際の医師対応が一番の難関と思われる。医局派遣だと、今後の関係性が気になって派遣先の病院からもう不要ですとは到底言えない、独自採用でも安易に退職を迫ることで民事訴訟に発展しかねない。医局派遣・独自採用いずれの場合も、関連病院や連携病院に活躍の場を提示できるのが理想である。
一病院単位での病床削減について
  • 損益分岐点までベッド数を削減するのはどうか。⇔病院のコンサルティング業務などを通じて分析したときに、病院の損益分岐点を試算すると稼働率が100%以上必要になる病院(=単体では損益分岐点を超えられない)もある。損益分岐点をクリアさせることをそもそもの目的にしてよいのか、というところを考える必要がある。
  • 病床削減では看護の必要人数が大きく動くが、流動的な職種なので、採用を押さえれば自然減で1年以内にマッチするのではないか。
  • 診療科や病床の縮小をどのように決めるべきか?やらないことを決めるという話なので、病院の経営方針に沿って、それに合わない診療科やベッドの廃止を提案する必要がある。例えば急性期でも、救急受入強化なのか、がん診療強化なのかなどで取るべき方向性は異なってくる。
  • 方向性の絞り込みについて、競合となる病院をみてポジショニング(方向性)を決めることがよいと思う。例えば、近隣にがんセンターがある中で、がん患者やそれに対応できる医師を集めることは困難であり、それならば救急中心の診療領域に力を入れるのがよいとのでは。
  • 病院運営には医療職の医学的モチベーション(診たい疾患、取り組みたい治療など)が不可欠であり、ダウンサイジングについても、病院幹部だけの判断で実行すべきではない問題であることを念頭に置く必要がある。
  • 日本では公的病院だけでなく民間病院にも社会的責任が問われていることが特徴。病院経営の在り方としては「金のなる木」を育ててつつ、社会的責任あるところを守るしかない。ただし、「社会的責任」が慣例化していたり、過大評価していたりする場合はキチンと地域状況を認識して、やめる英断は必要。
  • 採算の取れない診療科は診療報酬をいじるか公的機関に任せるかの二択であるが、診療報酬を医療機関側からアプローチしにくい以上、ある程度診療科を切っていくしかない。
  • 地域内での医療機能の集約化について赤字診療科を黒字診療科がカバーするような体制でないと地域がもたなくなる。理想から入ると労働力は法人や医療介護の垣根を超え地域でシェアしていくのが良いのでは。独立採算のままでも人材の流動性さえ確保すれば過剰なとこから手薄なとこに移してお互いが利益を最大化できる。
  • 病院が求められる社会的な機能としての役割(小児や産科など)は、コストがかかりやすいという側面から、本来公的病院がやった方がいいと思う。
  • 医療機能の集約化と併せて、労働力のシェア(病院の垣根超えてここがヘルプしあう仕組み)が出来ないか。これが出来れば、病院における人件費削減もしやすくなるし、働き手の不安(≒リストラへの不安)も減る。

まとめ

  • 赤字病院支援のファンドが設立。債務対応と費用削減がメインの取り組みですが、本当にその方法でいいのでしょうか?
  • 医療収益を見ると、全体の59.7%の病院が赤字です。
  • 赤字の背景もさまざまですが、もっと地域全体を支援していかないと継続的な地域医療の維持は難しいです。
  • 黒字化に向けた案は、拡大案か縮小案。今回は縮小案について議論。
  • 2つの案、一病院単位での診療科削減、一病院単位での病床削減があるものの、地域単位でどう労働力を寄せたり削ったりするかが重要なポイントです。

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以上、「赤字病院支援は、債務対応と費用削減のアドバイスでいいのか?」というお題に対して、昭和60年生まれ以降で病院経営に興味を持つコミュニティーで議論した内容のまとめでした。

この議論は、5日間で、Facebook messengerでのやりとりのみで行いました。会ったことない人もいる中で、オンラインのやりとりのみで議論を深めました。金融機関やファンドの視点ではなく、現場に近い視点なので、欠けている視点もあるかもしれません。ただ、ひとつのニュースに対して多くの視点を持てたのは、コミュニティーとしては大きな成果です。

病院経営業界は人材難です。残念なことに、優秀な人から周辺産業(ITやベンチャー、コンサル)に抜けていきます。
それでも病院の内部から、業界全体を良くしようという若手がいます。今回の議論を通して、まだまだ業界をよくできると確信しました。

Healthcare Compassでは、引き続き、病院経営の業界が盛り上がる意見や情報を発信していきます。

 

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