「心理的安全性」という言葉があまりにも有名になってしまいました。
心理的安全性とは、自分の言動が他者に与える影響を強く意識することなく感じたままの想いを素直に伝えることのできる環境や雰囲気のことです。チーム生産性を高める唯一の方法として、米グーグル社が発表したことで大きな注目を集めることになった
(参照:https://bizhint.jp/keyword/101187)
そうです、Googleがチームの効果性に影響する因子を調べた結果、もっとも影響を与える因子が「心理的安全性」だったのです。
実際、初対面の人が集まるイベントなのでも「今日集まったメンバーで、できるだけ良い会にしたいので心理的安全性を高めていきましょう!」というコメントを2度3度聞いたこともあります。
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先日、20人以上の会社の同僚と一堂に会して食事をしました(世間では飲み会と言うみたいです)。その食事会で「心理的安全性が担保されているなぁ」と感じる場面が多々ありました。その20人とは、それぞれ働いたタイミングは違えど、事業の成長になんらかの形で関わり苦楽を共にした「チーム」でした。
心理的安全性が担保されたチームで過ごす時間は、仕事であっても食事であってもとても楽しくリラックスできます。ただ思い返してみると、その20人の同僚と「心理的安全性を高めよう」という働きかけをしたことはありません。
その経験から、心理的安全性を高めるための最低条件があるのでは?と私は考えました。つまり、心理的安全性を謳う前できることがあるはずだと。
そこで改めて、本家のGoogleが心理的安全性についてどう言及しているか調べてみました。
管理上の組織とチームは違う
Googleの「「効果的なチームとは何か」を知る」 というウェブサイトで、心理的安全性が重要な因子であることを発表した調査内容がまとめられています。調査の中で初めに定義されていたのは、チームについてでした。
ワークグループ: 相互依存性が最小限という特徴があり、組織または管理上の階層関係に基づいています。ワークグループのメンバーは、情報交換のために定期的に集まる場合があります。
チーム: メンバーは相互に強く依存しながら、特定のプロジェクトを遂行するために、作業内容を計画し、問題を解決し、意思決定を下し、進捗状況を確認します。チームのメンバーは、作業を行うために互いを必要とします。
心理的安全性は組織の効果を高めるのに有効と私は思っていましたが、プロジェクトベースのチームにおいて有効のようです。
つまり、もし組織的な管理を任されている中間管理職の方が組織のパフォーマンスを最大化しようと心理的安全性を高めようとするのは必ずしも正しい打ち手とは言えない可能性があります。
さらに有志で集まった集団というよりは、ある目的を達成するために集められたチーム(新診療科のオープン、関連施設のリニューアル)や、あるリーダーの呼びかけによって結成されたチーム(例:ベンチャーの創業期)に心理的安全性が有効であることがわかります。
Googleからの本当のメッセージ
何がチームの効果性に影響を与えているのかを調査した結果について、重要なメッセージは、これです。
真に重要なのは「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」であることを突き止めました。
どのように協力しあっているかを測る因子の中で、もっとも影響していたのが心理的安全性というだけで、Googleは実際には5つの因子が大切だったと発表しています。
そして協力しあって働くことが効果的であることを理解する上で、もう一つ大切なのことがあります。それは、効果性に影響しない因子です。それらは、
- チームメンバーの働き場所(同じオフィスで近くに座り働くこと)
- 合意に基づく意思決定
- チームメンバーが外交的であること
- チームメンバー個人のパフォーマンス
- 仕事量
- 先任順位
- チームの規模
- 在職期間
「チームは一緒の場所に座るべきだ」「みんなの意見を聞いて合意して意思決定すべきだ」という日本の会社の暗黙知が見事に否定されています。
定義と調査結果をみて、わかったこととして
- 心理的安全性は、目的を達成するためにプロジェクトチームに有効。
- ただ「心理的安全性」のみが大切なのではなく、「どのように協力しあっているか」が大切なメッセージ。
- チームの効果性に影響しない因子もたくさんあるので、チームに対して自分のバイアスを見直す必要がある。
ということです。
心理的安全性を求める前に私たちができること
このGoogleの「「効果的なチームとは何か」を知る」 というウェブサイトから、調査の主旨と結果がわかったものの、日本のドメスティックな企業で働いている自分としては、前提をしっかり足固めする必要があると感じました。
それは、チームを作る、こと。
日本のドメスティックな企業では、チームを作ることへの意識が低いと感じることがあります(日本中の企業を見たわけではないですが、所属した組織や一緒に仕事をした会社の方々を通して)。
ときに、新卒の経験のために高すぎる下駄を履かせてみたり、人数合わせや部署間の体裁を保つためにメンバーを加えたり、オブザーバーという給料泥棒を入れてみたり。
Googleからのメッセージは、チームを結成してプロジェクトを成功に導こう!だと私は受け取りました。
まずは、その「チーム」を妥協なく結成する必要があります。
ここからは完全に私の私見ですが、チームを作るために私たちができる4つのことを最後に紹介します。
- メンバーの得意スキルを重複させない
- チームをできるだけ小さくする
- チームのリーダーを決める
- チームに、期間とミッションをもたせる
1. メンバーの得意スキルを重複させない
日本の組織は、職能で管理されていることが多いです。マーケティング担当、開発担当、交渉担当、経理担当など。
チームを結成して、何かしらの目的を達成する際、同じスキルをもった人は「チーム」に二人は必要ないと思います。
チームで活動する際は、そのスキルを持った組織の代表としてチームに参加して、スキルや職能面で課題や困ったことがあった場合は自分の所属している管理組織内で相談をすればいいと私は思っています。
それぞれはそのスキルを持った組織の代表としてチームに参加することで、各メンバーの責任感と判断できる領域が増しリスクが取りやすくなります。更に、スキルを補完しやっているので、逆にお互いの弱みも把握でき、フォローし合えるチームになります。
2. チームをできるだけ小さくする
メンバーの得意スキルを重複させないことと同義ですが、チームは各得意領域を持ったメンバーの最小単位で構成すべきです。
上長を参加させたり、オブザーバーを置くと、ディスカッションの深さや意思決定のスピードが中途半端になってしまいます。
大規模プロジェクトの場合、チームがいくつも組み合わさって目的を達成します。その場合は全体管理チームと実働の開発チームがそれぞれ可能な限り小さい単位でまとまっていればよいでしょう。
3. チームのリーダーを決める
チームをできるだけ小さくして、組織の代表がチームとして集結すると、管理組織のマネージャーはそのプロジェクトのことを不安に思うこともあるでしょう。
その場合は、各管理組織のマネージャーで相談して、リーダーを決めるべきです。リーダーは意思決定の責任と説明責任の両方を担うようにして、各マネージャーへ透明性を担保するようにすれば良いです。
4. チームに、期間とミッションをもたせる
最後に、目的を達成するためのチームなので、チームの継続期間とその時期のミッションをきちんと持たせる必要があります。
目的を何合目までを達成するチームとして、そのチームが結成されたかを明確にすることで、上記の1.2.3.がより運用しやすくなります。
これら4つを満たすチームを作って初めて、Googleが発表したチームに有効な5つの因子(心理的安全性、相互信頼、構造と明確さ、仕事の意味、インパクト)を磨き込んでいけるでしょう。
まとめ
今回は、会社の同僚と一堂に会して食事したことをきっかけに、Googleが発表した「心理的安全性」を改めて調べてみました。
調べてわかったこととして、
- 心理的安全性は、目的を達成するためにプロジェクトチームに有効。
- ただ「心理的安全性」のみが大切なのではなく、「どのように協力しあっているか」が大切なメッセージ。
- チームの効果性に影響しない因子もたくさんあるので、チームに対して自分のバイアスを見直す必要がある。
さらに、私見として、日本のドメスティックな企業である場合は、チーム作りを妥協なく行うことが第一歩目である、と考えました。
そのチーム作りとは、
- メンバーの得意スキルを重複させない
- チームをできるだけ小さくする
- チームのリーダーを決める
- チームに、期間とミッションをもたせる
です。
私見の部分は、異論もあると思うので、ぜひみなさんも、Googleの出している「「効果的なチームとは何か」を知る」を一度読んでみてください。
--筆者--
小迫 正実 (こさこ まさみ)
高校生で訪れたフィリピンのスラム街での体験から、人の命に関わる分野から経済を動かし、世界を変えたいというビジョンを抱く。
2012年慶應義塾大学卒業後、聖路加国際病院で医療の質を司るQIセンターの立ち上げに従事。分析業務から、データ×ITに課題解決の糸口を感じ2014年にヤフーに転職。広告データ事業に従事し、ITへの理解を深める。並行して、病院経営効率化のための一般社団法人Healthcare Opsを2017年に設立し活動。2018年には公衆衛生修士をリバプール大学のオンラインコースで取得。
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