病院経営ウェブマガジン“Healthcare Compass (ヘルスケア・コンパス)”

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Healthcare Compass (ヘルスケアコンパス)

最先端クリニックを受診して考えた患者安全と感染管理

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本記事は、個人的な体験をベースに書いています。

最先端のクリニック運営

先日、最先端の経営を行なっていることで有名なチェーンのクリニックを受診しました。
このクリニックは、ベンチャーキャピタルから資金調達をして、テクノロジーを駆使してクリニックのチェーン展開をしています。
旧態依然としたクリニック経営において、このクリニックチェーンが取るアプローチに私は賛同していました。たまたま1週間ほど体調が崩していた際、このクリニックを予約して受診することに。予約はインターネット上で行ないそのまま。
ネット上で問診。 少し面倒ではあったものの、全体的にスムーズでした。

そして、フラフラの身体でクリニックへ。予約していることもあって、待ち時間は5分程度で、体調の悪い私には大変助かりました。
さて、いざ受診。
ドアをノックするも、部屋の中からは返事がありません。。。「さっきマイクで呼ばれたんだから」と勇気を振り絞ってそっとドアを開けると医師が座っていました(当たり前ですが)。
問診が始まっても、医師はパソコンの画面に顔を向けたまま。名前と生年月日の確認はありませんでした。
そして、インターネットで済ませた問診と同じことを医師から訊かれました。体調が最悪な中、パソコンの前で5分以上かけて答えた質問に再度応えるのはしんどかったです。質問のあといくつか医師とコミュニケーションをして診察終了。
会計を済ませて、処方箋をもらい、無事に薬局で薬をもらうことができました。

 

体調不良が治らず再受診

しかし、残念ながら処方された薬では治らず、再度同じクリニックを受診することに。
インターネットで予約しましたが、問診はスキップ。同じ質問をまた訊かれるのかと思ってしまい、インターネット問診を同じクリニックで試してみようとは思えなかったのです。
再受診の際も、前回同様予約から受診までとてもスムーズでした。さらに2回目の医師(前回と違う方)は、以下の点がとても素晴らしかったです。

  • 挨拶(<= これ、超重要)
  • 名前の確認
  • 症状を細かく訊き、さらには、なぜその質問をしているのかという背景も教えてくれる。
  • 薬も、私の生活スタイルを訊きながら処方してくれる。

前回の医師の、パソコンだけを見つめ、インターネット問診と同じ質問をするという体験が若干のトラウマになっていた私としては、2回目の丁寧に説明してくださるスタイルにとても安心できました。
質問が終わり「肺の音を聞いてみましょう」と医師は言い、聴診器をデスクの引き出しから取り出しました。そして聴診器をアルコール消毒しないまま、私の胸と背中にあてます。医師自身も手指消毒はせず、胸と背中を診察。そして、私に当てられた聴診器は、消毒されないまま引き出しに戻されました・・・。
結果的には、原因がよくわからなかった体調不良も、2回目の医師が処方してくださった薬のおかげで治まりました。

 

良いところは、予約から受診までのオペレーション

予約からインターネットの問診、待ち時間、診察までを、このクリニックではしっかりシステムで繋ぐことができていおり、その部分の患者体験はとてもスムーズでした。
新卒のとき、総合病院で働き、オペレーション改善の仕事をいくつも経験しましたが、総合病院では一貫したオペレーションに限界があります。規模が小さく入院機能を持たないクリニックでは、良いシステムを導入すれば患者体験をより良くすることを実感することができました。

 

気になるのは、基本的な医療安全と感染予防

上記の個人的な体験の中で、医療の質について気になった部分を2つ強調しました。

  • 問診が始まるも、医師はパソコンの画面に顔を向けたまま。名前と生年月日の確認はありませんでした。
  • 聴診器をアルコール消毒しないまま、私の胸と背中にあてます。医師自身も手指消毒はせず、胸と背中を診察。そして、私に当てられた聴診器は、消毒されないまま引き出しに戻されました。

意地悪な取り上げ方にも見えますが、医療の質で仕事をしていた身としては、どうしても気になってしまう2点。

  • 患者確認
  • 感染予防

医療の質を担保する国際的な第三者評価機関、Joint Commission Internationalは、医療安全と感染予防の基本として、6つの目標を提示しています。

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(参照:https://www.jointcommissioninternational.org/improve/international-patient-safety-goals/
この中でも、クリニックに関連する
1. Identify patients correctly(患者確認)
5. Reduce the risk of health care-associated infections(感染予防)
は、最先端を謳うクリニックなら是非とも注力して欲しい領域です。

システム化が急務なのは医療安全

医療において予約や問診をシステム化すると同時に、医療安全領域への投資も急務と私は考えます。
患者体験に注目する際、医療安全面に注力されてないのは片手落ちといっても仕方ないでしょう。
クリニック領域の患者安全としてできることを考えてみると、例えば診察券をICカードにして受診の際にかざすことで本人確認するという策が考えられます。投資家のお金が入っている分、費用対効果として難しいのはわかりつつ、医師が患者の名前を確認しない(生年月日も一緒に確認すべき)のは言語道断です。それを、医師による意識や習慣で変える前に、システムによる仕組みで変えることで全員がハッピーになるのでないでしょうか。
参考までに、正しい患者確認の方法と重要性は、こちら(患者確認は安全な医療の出発点 - 病院で働く事務職員のブログ)をご一読ください。

患者に触れる前の手指消毒は、基本中の基本

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(参照:https://www.who.int/gpsc/5may/background/5moments/en/
WHOは、医療における手指消毒が必要な5つの場面を定義しています。その中の1つ目が、患者に触れる前の手指消毒。
聴診器など患者に触れる機器の消毒も徹底して欲しいところ。多くの感染症(インフルエンザ)の患者をみているクリニックでは、今後は病院で行われているのと同基準で医療安全・感染予防を行なってもよいのでは?とも感じています。
今回私が受診したクリニックは、医師の診察以外のオペレーションをテクノロジーによって切り出しやすい形にし、誰もが簡単にクリニック運営をできる形を目指していると考えられます。売り物にするレベルまでオペレーションを切り出す場合、感染予防などシステム(ソフトウェア)を超えた施設(ハードウェア)の知見もしっかり溜めていく必要があるでしょう。

 

入れ替わり立ち替わりの医師の場合、どうやって質を担保するか

患者確認を代表とする医療安全や、地域の単位の病気の流布にも関わる感染予防。これらは医師個人の問題ではなく、クリニックが医師にどうやって医療の質を担保させるかの指針の問題です。
とくに、テクノロジーの導入によって複数人の医師でスムーズにクリニックを回せるようになった場合、ソフトウェアと施設指針(ハードウェア)によって各医師に統一された医療安全や感染予防の基準を遵守させるかは大きなポイントになるでしょう。

 

クリニックでも当たり前になってほしい医療安全と感染予防

テクノロジーによって患者の利便性を向上させる医療機関でも、医療の質を一定に担保できない仕組みの場合、それは医療機関として片手落ち。
医療業界では、医療安全・感染予防のために、日々医療者の時間を多く使っています。だからこそ、患者面と同時に医療安全・感染予防の分野にもテクノロジー投資がなされ、医療者の生産性があげることで、患者体験をより良くする世界になればと思っています。


   

--筆者--
小迫 正実 (こさこ まさみ)
高校生で訪れたフィリピンのスラム街での体験から、人の命に関わる分野から経済を動かし、世界を変えたいというビジョンを抱く。
2012年慶應義塾大学卒業後、聖路加国際病院で医療の質を司るQIセンターの立ち上げに従事。分析業務から、データ×ITに課題解決の糸口を感じ2014年にヤフーに転職。広告データ事業に従事し、ITへの理解を深める。並行して、病院経営効率化のための一般社団法人Healthcare Opsを2017年に設立し活動。2018年には公衆衛生修士をリバプール大学のオンラインコースで取得。

 

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