病院経営ウェブマガジン“Healthcare Compass (ヘルスケア・コンパス)”

Healthcare Compass (ヘルスケア・コンパス)。病院経営ウェブマガジン。病院経営の中でも急性期病院の経営・運営に携わる人のためのメディアです。

Healthcare Compass (ヘルスケアコンパス)

医療広告ガイドライン:攻める広報の道しるべ

 

「1,137件」

 

これは、病院ホームページなどの広告表現を監視している医療機関ネットパトロールで「違反の疑いあり」として審査対象となったウェブサイトの数(2018年4月~9月)です。

この数字をどのように思われましたか?
この直前の半年では678件で、ほぼ倍増しました。監視体制の強化が伺えます。その7割超は広告で激しい集患が行われてる美容・歯科関連ですので、いわゆる総合病院とは無縁のお話のような感覚を持っている方もいらっしゃるかと思いますが、法的にはすべての医療機関が審査対象です。違反の通報は誰でもできるため、公立でも、病床数が数百規模でも、内科でも、慢性期でも、ルール違反が起きていないか当局と国民の監視下に置かれているのです。

(参考)医療機関ネットパトロール相談室:http://iryoukoukoku-patroll.com/
(参考)医療広告の監視指導体制強化について[PDF]:https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/000462043.pdf

私は東京の広告代理店で病院広報の制作・アドバイザリー業務に関わっています。2018年6月の法改正後は、医療広告についてご相談をいただく機会、遵法の重要性をご説明する機会が多くなりました。病院でもセルフチェックや自治体の医務主管課(保健所)への問い合わせなど積極的に取り組まれるところあれば、どうしたらよいのかわからないと戸惑うところも見受けられます。

とある病院では、院長が参加された病院同士の会合で医療広告の対応状況が俎上に載り、いままで未対応だったことに慌てた院長が、広報担当に法改正の主旨説明と自院の現況報告を迫るということがありました。これは改正後数か月経ってからの話ですが、関係各所からの通知だけでは、なかなか積極的な取り組みとまではならないようです。
しかし、前述のとおりパトロールは強化される方向にあり、行政処分の可能性やマスコミ・国民の監視の目も考えますと「よくわからないから現状のままにしておくしかない」というスタンスには危さを感じます。

医療広告の規制は医療機関だけでなく一般企業や個人が発信する医療情報も対象としていますが、今回はいわゆる総合病院の体制・規模に絞って解説をします。また、医療法は医療広告を一律禁止しているのではなく、広告として情報発信できるもの・できないものを定めている法律です。この記事では「できる・できない」を把握するために身につけるべき考え方をお伝えできればと考えています。

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医療広告の考え方と広告になるもの・ならないもの

医療に関する広告は「医療法(第6条5)」に定められています。それを細かく指針としてまとめたものが「医療広告ガイドライン(医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針)」で、さらに具体的な事例をベースに構成された問答集「医療広告ガイドラインに関するQ&A」というレファレンスが用意されています。

実務上、参考にする資料は次の2点です。

  1. 医療広告ガイドライン(以降、ガイドラインと記述)
  2. 医療広告ガイドラインに関するQ&A(以降、Q&Aと記述)
    (参考)医療法における病院等の広告規制について:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kokokukisei/index.html

 

あらためて「医療広告」とは

医療法で「広告」と呼ばれているものが何かがわかると、法改正の意味と影響範囲の大きさがわかるかと思います。医療法では下記のものを「広告である」と定義しています。

患者の受診などを誘引する意図があること(誘引性)
医業もしくは歯科医業を提供する者の氏名もしくは名称または病院もしくは診療所の名称が特定可能であること(特定性)

独特の言い回しですが、かみ砕くと「患者を集めることを目的にしている情報発信は広告」ということです。誘因性「受診・来院させようという意図がある情報」、特定性「どこの病院でもいいわけではなく〇〇病院に限定している情報」の両方を満たせばそれは広告ですよ、という位置づけです。

広告となるものの具体例
  • 看板・ポスター・交通広告などの掲示物
  • ちらしやパンフレットなどの配布する印刷物
  • ウェブサイト・検索サービス・メールなどネット情報
  • 新聞・雑誌・テレビ・ラジオなどのメディア利用
  • 説明会などでのビデオや口頭による案内

一方で、患者の呼び込み(誘因)を目的としていないものは「広告」としては取り扱われないため、医療法・ガイドライン・Q&Aのルールは適用されません。

広告に含まれないものの具体例
  • 学術論文、学術発表など
  • 新聞や雑誌などの記事(ただし、お金を出して載せてもらうものは広告=記事風広告)
  • 患者が自ら掲載する体験談(ただし、医療機関からの依頼によるものは広告)
  • 院内掲示、院内で配布するパンフレットなど(すでに受診している患者に向けた情報提供とみなされるという考え方をします)
  • 採用を目的とした広告 
不正確な情報収集がもたらす「攻めすぎ」「守りすぎ」な情報発信

今回の法改正前後で、医療広告に関連した情報やノウハウも、いろいろな立場の方から発信されています。関心の高さや情報の豊富さという意味ではよい傾向ですが、正しい理解を妨げる「古い情報・誤情報・憶測」など玉石混淆な状況になっていると感じます。不確かな情報や誤った判断をもとにした広報・広告では適切な情報発信ができず、次のようなデメリットが生じます。

攻めすぎ 広告に掲載できない情報を載せてしまい法規やルールに抵触してしまう
守りすぎ 警戒しすぎて本来情報発信が可能なのものまで掲載を控えてしまい、必要な情報を届けられなくなる

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攻めすぎない守りすぎない適正な広告をするために知っておくべきこと3つ

  1. 医療広告を解説している記事がいつのものか
  2. ホームページも広告である(これまでは広告ではなかった)
  3. ルールはひとつではない(条件によって攻めと守りの範囲が変わる)
1. 医療広告を解説している記事がいつのものか

ネットで医療広告を検索すると、弁護士・コンサルタント・マーケター・医師などの方々が解説する記事がたくさん出てきます。原典となるのは厚生労働省が配布するガイドラインとQ&Aですが、お役所の文書特有の文法でわかりにくいところがあり、平易で簡便な情報源や自院の状況に近い事例を求める方も多いようです。

新法は2018年6月施行なので「それ以降に出された情報ならばよいのでは」と考えがちですが、新法に対応したQ&Aが発表された2018年8月以降に書かれた情報源を参考にしてください。
医療広告ガイドラインの記述は専門家でも解釈が難く、今回の改正でも誤った解説を広めてしまうという事態が起きました。それが発覚したのが2018年8月に発行されたQ&Aでした。つまりこれより前に書かれている記事は憶測が含まれている可能性が高いので、参考にすべきではありません。

厚労省は継続的にQ&Aをアップデートしていくとしていますので、できる限り新しい情報源をご覧になってください(新しければ正しいということではないですが…) 。
たとえば、前述の誘因性・特定性に加えて「認知性」の3つで広告を定義する解説する記事は古い記事です。
ちなみ、ネット以外の情報源として書籍も気になるかと思いますが、現時点(2019年4月)では、新しい医療広告ガイドラインに特化・準拠した解説書などは発刊されておりませんので、古い書籍にもご注意ください。

2. ホームページも広告である(これまでは広告ではなかった)

今回の改正の最重要事項ですので、このことは広く知られているようです。注意すべきは、バナー広告とウェブサイトの関係についての考え方が変わった点です。

自由診療の広告を出す場合「保険診療ではないこと」「標準的にかかる費用」などの掲載必須な情報は、バナー広告かリンク先のウェブサイトのどちらかに記載があればよいとされていました。しかし、法改正後のQ&Aでは、前述の必須情報をバナー広告・リンク先のウェブサイトの両方に明記しなければなりません。ですので、たとえば予防接種を広告する場合にもこのルールが適応されます。
このルールは Yahoo!・Googleの検索連動型広告(リスティング広告)などにも適用され広告の表現規制が厳しくなりました。

3. ルールはひとつではない(条件によって攻めと守りの範囲が変わる)

今回の法改正でもっとも厄介なのが、この「満たしている条件(要件)によって掲載できる情報の範囲が変わる」とう考え方です。この要件のことを「広告可能事項の限定解除の要件」といいます。この要件を含めてガイドライン全体は下表のように整理することができます。

表では、

  • (A)広告できる
  • (B)広告可能事項の限定解除の要件を満たすと広告できる
  • (C)広告できない

の3つに大別しています。

(A)広告できるものは「表現内容の規定」にある内容を「すべて」のメディアに広告・掲載できます。(C)はその逆でどのような場合にも広告することはできません。

(A)のままでは、あまりに表現(広告)できる情報が少ないと理解してください。感覚的には駅にある病院の看板などをイメージしてもらえると載せられる情報の乏しさがわかりやすいかと思います。これでは伝えたい情報やアピール、他院との差別化や違いを示すことができませんし、どのような医療を提供する病院かを患者へ伝えるには限界があります。したがって、(B)を前提とした情報発信に向けて広告の内容を補い、限定解除するための要件を満たすのに必要な情報を整えます。 

表現内容の規定 広告の可否・制限
(A)広告できるもの
誰でも攻めてよい

メディア・広告の種類
  • すべて
広告可能事項/ポジティブリスト
医師または歯科医師である旨

  • 診療科名
  • 病院または診療所の名称、電話番号、所在地、管理者の氏名
  • 診療にもしくは診療時間・予約診療の実施の有無
  • 法令に基づき一定の医療を担う指定を受けた病院もしくは診療所または医師もしくは歯科医師である場合、その旨
  • 地域医療連携推進法人の参加病院などである場合には、その旨
  • 入院設備の有無、病床数、医療従事者の員数、その他施設・設備などに関する事項
  • 医療従事者の氏名、年齢、性別、役職、略歴、所定の基準に適合した団体による専門性に関する認定を受けた者など(詳細別記)
  • 患者や家族からの相談・医療安全確保・個人情報適正取扱いのための措置、その他管理・運営に関する事項
  • 紹介することのできるほかの病院などの名称、施設・設備の共同利用状況、その他連携に関する事項
  • 診療録の提供に関する事項等
  • 提供される医療の内容
  • 平均入院日数、在宅・外来・入院患者数、手術件数、分娩件数、平均病床利用率、セカンドオピニオン実績など
  • 健康保険病院、船員保険病院、国民健康保険病院などである旨、健康診査・保険指導・健康相談・予防接種の実施など
(B)条件を満たすと広告できるもの
「広告可能事項の限定解除の要件」を満たせば攻めてよい

メディア・広告の種類
  • 患者が自ら求めて入手するもの
  • ウェブサイト
  • メルマガ
  • 資料請求で送るパンフレットなど
次の内容は「広告可能事項の限定解除の要件」を満たさない場合には広告として掲載できない

  • 学会が認定する研修施設であること
  • 受けた研修をスタッフの略歴に掲載すること
  • 「〇〇外来」 例:糖尿病外来、認知症外来、禁煙外来(詳細別記)
  • 「総合診療科」(詳細別記)
  • 医師個人の手術件数
  • 未承認医薬品・医療機器を用いた治療(ただし併載すべき情報の指定あり)
  • 医薬品や医療機器の商品名
  • 特定行為研修を受けた看護師であること
  • 医師が専門医であること(詳細別記)
  • 医師が産業医であること(詳細別記)

(C)広告できないもの
誰も攻めてはダメ

 

メディア・広告の種類

  • すべて
禁止されてる広告/ネガティブリスト

  • 比較優良広告(詳細別記)
  • 誇大広告(詳細別記)
  • 公序良俗に反する内容の広告
  • 治療やその効果に関する主観や伝聞による体験談の広告 (詳細別記)
  • 誤認させるおそれがある治療前後の写真の広告 (詳細別記)
  • 雑誌や新聞で紹介された旨の記載
  • 薬機法・健康増進法・景表法などその他法律に抵触する広告
  • 品位を損ねる内容の広告
  • 「○○病院××センター」(詳細別記)
  • 「呼吸器科」「消化器科」「胃腸科」「循環器科」 (詳細別記)
  • 治療の効果
  • その施設が保有していない医療機器のイメージ画像
  • 医師が学会の会員であること (詳細別記)
  • 治療に関する口コミ・体験談(詳細別記)
  • 説明併記がないビフォーアフター(詳細別記)
  • 医薬品医療機器等法、健康増進法、景表法、不正競争防止法などほかの法律で禁止されていること

 

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「広告可能事項の限定解除の要件」 を満たすには

下記の条件を満たすことで前掲の表(B)=広告可能事項以外についても情報を掲載することが可能になります。

  1. 患者などが自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイト、メルマガ、パンフレットなどであること
  2. 掲載内容について問い合わせができる連絡先・連絡方法を明示すること
  3. 自由診療による治療内容・費用などについて情報を提供すること
  4. 自由診療による治療のリスク・副作用について情報を提供すること

これで晴れて(B)の情報を掲載できるようになりますが、ガイドラインやQ&Aだけではどこまでの情報が広告可能かわからないことがどうしても出てきます。究極的には問題が生じた度に自治体の医務主管課(保健所)へ判断を仰げば間違いありません。ただ、当局担当者のスタンスによっては是非・可否だけの判断で、どのように表現したらよいかなどの代替表現を考えてくれるわけではありません。そういった場合には、訴求をしつつ順法する表現にリライトするサービスを利用する方法も検討できますが、これには当然費用がかかります。

おまけ程度の内容になりますが、病院からよく相談いただくケースを独自のQ&Aとしてまとめました。自院で判断される際にご参考いただければと思います。
「詳細後述」とあるところもこちらをご覧ください。

(参考)病院広報バロンデセ版:医療広告ガイドライン・医療広告ガイドラインQ&Aの読み方

 

今後の医療広告の方向性はどうなるか。

制度はより厳密に、監視体制はより強化の方向へ進んでいます。しかし、ネットに関しては情報発信をする方法や目的、発信者、利益構造がこれまでのメディアとは異なり、現況のガイドラインのスキームでは不十分です。「医療広告を医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」のメンバーにネットや広告業界からの人選はなく、オブザーバーでの参加はあったのですが限定的で、ネットの現状がガイドラインに反映されているとは言い難く、このことは今後の課題になるでしょう。

そのひとつとしてSEO(検索エンジン最適化施策)の取り扱いが議論になるのではと思います。

医療法、ガイドライン、Q&AではSEOに規定はありません。BuzzFeed Japan Medicalによる東京都医療安全課担当者への取材では、ガイドラインの「実質的に広告と判断されるもの」という項目を論拠として、「誘因性・特定性・費用負担が認められれば広告」であると判断される可能性を示しています。

(参考)ネットの医療情報規制に「抜け道」 SEOが再び悪用される危険性:https://www.buzzfeed.com/jp/seiichirokuchiki/iryoho-kaisei-nukemichi

ここからは私見になりますが、検索エンジンサービスの特性上、何をもってSEO( SEO対策)とするかの線引きが難しいです。たまたま自院ウェブサイトのページが検索結果の上位に表示されれば高い「誘因性」があり、ウェブサイトの制作を外部依頼していれば「費用負担」が発生していることになり、リンクや院名の記述で「特定性」も満たされます。しかし、この条件にマッチしてしまうウェブサイトやページは無数にあり、これらすべて違法状態であるとするのは現実にそぐわない考え方です。
また、費用負担がなくても自院にウェブ技術に明るい方がいれば、(成果は別問題として)対応可能なSEO施策もあり、「院内スタッフが対応した場合には費用負担がないので SEOでない」というのも乱暴な議論です。

SEOのアルゴリズムが明らかにされていないため、費用負担による施策とそれがおよぼした変化の因果関係を証明することができませんから、実際的にはSEOをしていることを第三者が指摘することはできず、東京都の示した考え方は実効性・現実性がないのではないかと考えています。

 

判断基準の統一化を目指す医療広告協議会(仮称)の設置

同検討会において、医療広告の内容可否の判断を地域や担当に委ねる体制をとっているため、ある地域ではOK、ある地域は不可という「ルールのゆれ」が発生しています。このバラつきの統一化を図るため、自治体代表・団体代表・厚生労働省からなる医療広告協議会(仮称)の設置の提案がありました。これによりQ&Aが整備されていけば、より適正で活発な〈攻める広報〉の実現につながるはずですので、この動きには期待しています。

(参考)医療広告に関する監視指導体制強化について[PDF]:https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/000462043.pdf

上記資料の一番最後に「ウェブサイトの監視指導体制の強化により、自由診療を提供する医療機関等のウェブサイトの適正化につなげ、消費者トラブルの減少を目指す」とある通り、今回の法改正は保険診療を事業ドメインとする病院・クリニックへの情報発信規制を目的としていません。しかしながら、法的には「何人も(なんびとも=すべての人・法人)」とありますので遵法意識は持たなければなりません。

リスクを考えると守りに傾きがちになると思いますが、ガイドラインの主旨を正しく把握した上で、健康・治療の情報提供を広めていく〈病院の攻める情報発信〉が盛んになってほしいと思っています。


--筆者--
高橋良

1976年生まれ。広告広報プランナー、制作ディレクター、医療経営士。
twitterアカウント 病院広報バロンデセ で「医療経営コンサルタントが言及しない広報の考え方」「院内の広報担当が悩みやすい情報発信のノウハウ」を中心に情報提供。株式会社コミュネクスト(https://www.communext.co.jp)で病院やクリニックの広報・広告・採用支援事業に従事するほか、病院などでホームページ作成やアクセス解析活用の講師など。「公益をもって自らの利益とする」をミッションに掲げ、活動中。

 

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