2019年4月末に気になるニュースを目にしました。
(日経新聞のウェブ版の参照元は削除されています)
重要な部分を引用すると、以下のとおりです。
国や自治体の公立病院、日赤などの公的病院について、厚生労働省は24日、手術件数などを分析し治療実績が乏しい場合は統合や再編を促すことを決めた。
分散している医療機能を集約し、病院ベッド数を減らして医療費を抑制する狙い。効率的な体制にして医師の働き方改革につなげる目的もある。
2019年2月に発売された東洋経済の「病院が消える」特集でも、日本病院会の相澤会長が、役割分担を見直すことで、8000以上ある病院が半分の4000程度で済むようになると言っています(参照:https://compass.healthcare-ops.org/entry/masamikosako/20190218)。
病院・クリニック界隈で仕事をしている人と話をすると、「日本は病院数が多すぎる」「医師の数が少ない」という話を耳にします。
実際、なにを根拠に多い少ないを議論し、どういう方向に公立病院は向かっているか、調べてみました。
どの会議で公立病院の統合/再編を検討しているの?
今回の公立病院の統合/再編については、厚生労働省の社会保障審議会医療部会が話を進めています。
参加者名簿を上から6名見るだけでも、病院運営の要の方々が参加していることがわかります(参照:https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000504400.pdf)。
氏 名 所 属
相澤 孝夫 日本病院会会長
安部 好弘 日本薬剤師会副会長
井伊 久美子 日本看護協会副会長 香川県立保健医療大学学長
井上 隆 日本経済団体連合会常務理事
猪口 雄二 全日本病院協会会長
今村 聡 日本医師会副会長
実際、どんなことが検討されているのか?
社会保障審議会医療部会のページにアップされている資料をみると(https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000504328.pdf)
これまで、2017年度、2018年度の2年間を集中的な検討期間とし、公立・公的医療機関等においては地域の民間医療機関では担うことのできない医療機能に重点化するよう医療機能を見直し、これを達成するための再編統合の議論を進めるように要請した。
今後、2019年年央までに、全ての医療機関の診療実績データ分析を完了し、「代替可能性がある」または「診療実績が少ない」と位置付けられた公立・公的医療機関等に対して、構想区域の医療機関の診療実績や将来の医療需要の動向等を踏まえつつ、医師の働き方改革の方向性も加味して、当該医療機能の他の医療機関への統合や他の病院との再編統合について、地域医療構想調整会議で協議し改めて合意を得るように要請する予定。
お役所仕事だけあって、一文が長い・・・のですが、非常に的を射た議論が展開されているように感じます。
統合/再編の背景
以前に本ウェブマガジンで、日本の医療制度の現状を取り上げ(参照:最高の医療を受け続けるために、いまやるべきこと)、以下のことをお伝えしました。
- 今後日本では、高齢者が増え労働人口が減っていく中で、策を打たない限り医療費は右肩上がりの増加となる。
- さらに、公費と保険者の負担も増加。国家予算規模からみてこれ以上社会保障費用を増やすのは、日本の未来を考える上で得策ではない。
- 労働人口が減っていくにもかかわらず、彼らの税金や保険料で賄われる医療費が増えれば、医療制度が「破産」。私たちの健康のベースである国民皆保険やフリーアクセスを享受することができなくなる。
現行の制度のままでは、制度崩壊が目に見えているので、手を入れる必要があります。
何と比較して、多い少ないを議論するか?
では、統合/再編をするにあたって、私たちは何と比較して病院数が多い、医師の数が少ない、と言っているのでしょうか?
日医総研が2018年にまとめた「医療関連データの国際比較 -社会保障の給付と負担、医療費、医療提供体制-」を抜粋してみてみましょう。
こちらは、OECDで公表されているデータを国別に比較したものです。
まずは保健医療に関するお金の比較です。
上記のグラフのとおり、2017年のデータでは、OECD加盟35カ国中6位と比較的高い順位に位置しています。
GDPという国家の経済力に対して保険医療の支出が多いことを念頭に、医師数と病床数の比較をみてみましょう。
人口1,000人あたりの医師数は、35カ国中30位。
対GDP保健医療費1位のアメリカがすぐ上の29位なので大差ないように思えますが、対GDP保健医療費で日本より上のスイス、ドイツ、スウェーデン、フランスの人口1,000人あたりの医師数は、日本より1〜2人多いことがわかります。
確かに日本の医師数は少ない、と言っていいでしょう。
次に、病床数。1000人あたりの病床数は、日本は35カ国中2位です。
つまり、世界的にみて、医療に関するお金はたくさんかかっていて入院できるベッドの数も多いけど、向き合ってくれる医師の数が少ないのが日本、というのが言えるでしょう。
公立病院はどこに向かっているのか?
では、上記の背景やデータをもとに、公立病院はどこに向かっているのでしょうか?目標や到達地点、ビジョンはあるのでしょうか。
まずは、ビジョン。先程も記載しましたが公立病院は、
地域の民間医療機関では担うことのできない医療機能に重点化する
ことを直近のあるべき姿と定義しています。
それに対しての進め方は、「公的医療機関等2025プラン」をそれぞれの地域の医療機関が作成して、地域医療構想調整会議が検討するという進め方が謳われています(参照:https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000504401.pdf)。
具体的には、
全ての医療機関の診療実績データ分析を完了し、「代替可能性がある」または「診療実績が少ない」と位置付けられた公立・公的医療機関等に対して、(中略)他の病院との再編統合
とあります。ボトムアップ型でビジョンを達成するための目標を設定しようとしているみたいです。
ただ、現実として国家の予算が明確で、OECDのデータによって取りうる最大値最小値がわかっていて、人口の年代ごとの推計も出せるのが現在の日本です。
厚労省および地域医療構想調整会議は、そのデータをもとに、なんのリスクを取って、どういう状態に持っていくかのビジョンをもっと明確に出すべきです。
さらに、民間医療機関で担うことができない医療機能を提供することをビジョンに掲げつつ、診療実績が少ない医療機関は再編統合というのに違和感を感じます。
少ないけど必要なものを残していくのが今回の目標なのではないでしょうか?
少し長い目で見た場合、ニーズをもとにしたプランと人口推計をすり合わせて病院を再編すれば、団塊世代が天寿を全うする頃には年金を支えている生産年齢の労働者がその恩恵を受けくくなっている可能性が高いと私は考えます。
だから公立病院を統合/再編できる今こそ、日本の医療提供体制のビジョンをより明確に掲げて、将来日本を支える人たちも恩恵を受けられる形を考えてほしいと願います。
最後に
公立病院の統合/再編は、厚生労働省の社会保障審議会医療部会が話を進めており、「地域の民間医療機関では担うことのできない医療機能に重点化する」ことをビジョンにしています。
世界的にみて、医療に関するお金はたくさんかかっていて入院できるベッドの数も多いけど、向き合ってくれる医師の数が少ないというのが現状。
厚労省が医療機能を見直す方法は、ボトムアップ型で「代替可能性がある」または「診療実績が少ない」という点が考慮のポイントとされています。
しかし、なんのリスクを取って、どういう状態に持っていくかをより明確にして、将来の日本の医療制度を支える人にもメリットを産む形で見直しをすべきではないでしょうか。
--筆者--
小迫 正実 (こさこ まさみ)
高校生で訪れたフィリピンのスラム街での体験から、人の命に関わる分野から経済を動かし、世界を変えたいというビジョンを抱く。
2012年慶應義塾大学卒業後、聖路加国際病院で医療の質を司るQIセンターの立ち上げに従事。分析業務から、データ×ITに課題解決の糸口を感じ2014年にヤフーに転職。広告データ事業に従事し、ITへの理解を深める。並行して、病院経営効率化のための一般社団法人Healthcare Opsを2017年に設立し活動。2018年には公衆衛生修士をリバプール大学のオンラインコースで取得。
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