刻々と変化するクリニック向け電子カルテ
電子カルテ業界が、少しずつ前進しています。
電子カルテ特集をして、1年が経過しようとしています。
大病院向けの電子カルテはまだまだ良い話を聞かない昨今ですが、クリニック向け電子カルテは日々進化をしています。
医療ビジネスの雄:エムスリーが仕掛ける電子カルテ
2018年10月に、AI搭載を売りにしていた「デジカル」が、「エムスリーデジカル」に名称変更しました。
エムスリーグループのリソースを最大限に活かして、導入拡大を続けていくようです。エムスリーグループは、治験やAIの分野でも買収を重ね、事業拡大をしているので、エムスリー経済圏のなかで「エムスリーデジカルなら、こんな便利な機能があるよ」というのを売りにして、電子カルテを展開していくことが予想されます。
導入件数は700施設を突破し、クラウド型電子カルテのシェアとしてはNo.1 のようです(参照:https://digikar.co.jp/news/karte20190212)。
ただ、クリニックは日本中に10万施設あります(参照:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/17/dl/02sisetu29-1.pdf)。
そう考えると、エムスリーでさえ、市場の1%も抑えられてないので、勝負はこれからと言えるでしょう。
電子カルテは、SaaSの時代
クラウド型電子カルテは、IT業界ではSaaS(サーズ)というカテゴリに分類されます。
SaaSという言葉をご存知でしょうか?
必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウェア(主にアプリケーションソフトウェア)もしくはその提供形態のこと。一般にはインターネット経由で必要な機能を利用する仕組み
(参照:https://ja.wikipedia.org/wiki/SaaS)
インターネットが当たり前になるまえ(というか病院などでは今でも) 、中央の物理的なサーバーにソフトウェアを入れたり、それぞれのPCにソフトウェアを入れたりして、サービスを利用する必要がありました。
病院に勤められている方なら・・・勤務先の電子カルテを想像してみてください。
昨今では、SaaSの登場によって、インターネットにさえつながれば、サービスを享受できるになりました。
一般的なSaaSといえば、Gmailやヤフーメールが代表的でしょう。メール以外にも、DropboxやEvernoteなどのストレージサービス、Office 365もSaaSに該当します。
上記で挙げたSaaSの中で、業界の特性に絞って開発されたものを、Vertical SaaS(業界特化型SaaS)と言います。
業界特化型のサービスにすることで、かゆいところに手が届くサービスを作ることができ、一般的なSaaSと比べて市場シェアを多く取れます。
電子カルテは、病院やクリニックなど専門職の人が多く使うサービスなので、当然Vertical SaaS(業界特化型SaaS)となるわけです。
お手本のような展開:クリプラのVertical SaaS
電子カルテは、 Vertical SaaS(業界特化型SaaS)の中でも難しい領域だと感じています。
そもそも、大病院の電子カルテが使いにくいという声の背景には
- 診療科ごとのカスタマイズが求められる
- 連携すべき医療機器が多い
- ユーザーが、医師以外にも、看護師、技師、医療事務など複数いる
- 個人情報保護の観点から、セキュリティを強化する必要がある
ことをすべて考慮しながら開発しないといけないからです。
ただ、クリニック向けとなると
- 診療科に特化させやすく
- 医療機器も限られていて
- ユーザーも少ない
という観点から、ヘルステックベンチャーによる参入が進んでいます。
そんなクリニック向け電子カルテを見ていて、お手本となる進め方をしている企業があります。
株式会社クリプラです。
基本となる電子カルテ CLIPLAをベースに、眼科専用の電子カルテ CLIPLA Eye を展開して、診療科特化の電子カルテの先陣を切っています。
そのクリプラから、新しいニュースが来ました。
産婦人科向けクラウド電子カルテ「CLIPLA Luna(クリプラ ルナ)」を開発(参照:https://clipla.jp/news/2019/04/10/20190410/)
株式会社クリプラは、2018年3月にルナルナなどを運営する株式会社エムティーアイの傘下に入っています。
傘下に入って第1弾の取り組みが、産婦人科向けクラウド電子カルテの開発!
このサービスのすごいところは、クリプラがすべての開発を抱え込まず、各サービスとの「連携」をしていくことでサービスを提供しようとしていることです。
(参照:https://www.mti.co.jp/?p=23528&fbclid=IwAR2c-5AzT3qE4gSvMgv0hdEfzj-afmUQmzi2dBZtv48NYHJKWOd5SrB9srI)
Twitterではこんな声も。
診療科別バーティカルに絞って患者チャネルを押さえてるプレイヤーとタッグ組むの、打ち手として正しすぎる。
— 辻裕介@MINX (@YusukeZ2) 2019年4月10日
ルナルナ x CLIPLA 産婦人科向けクラウド電子カルテ『CLIPLA Luna』を開発https://t.co/dWymcwKfFh @mti_officialより
ルナルナや母子手帳アプリ以外にも、お薬手帳なども連携していけば、医療機関側で情報がますます一元管理され、医療者は診断・治療に必要な情報をより知ることができます。
エムスリーの次なる1手
エムスリーデジカルとして快進撃を続けるエムスリー株式会社は、2019年1月にLINEと一緒に「LINEヘルスケア株式会社」を設立しています(参照:https://corporate.m3.com/press_release/2019/20190108_001448.html)。
LINEとの会社設立によって、電子カルテを患者がもっとも使っている可能性の高いアプリ「LINE」と接続できます。
(筆者作成)
エムスリーデジカルは、クリプラとは違って、全診療科に対する展開を行なっていくと考えられますが、こちらも「連携」を軸に使い勝手を向上していくと予想できます。
私見:これから出てくる会社
患者予備軍、患者が利用するスマートフォン上のアプリと、電子カルテが連携するようになると診療に必要な情報の質はあがるでしょう。
そして、ますます電子カルテメーカーは電子カルテの使い勝手に特化するようになり、今後は周辺サービス(ORCAやPACS)の質もつられてあがっていくでしょう。
またそれぞれの情報を機械学習することで、患者に適切な注意喚起ができるようにもなったり、医療者への意思決定の補助もできるようになります。
ただ、次の疑問も。
すべての電子カルテメーカーが、それぞれのアプリと連携をするのか?
電子カルテメーカー各社が、各アプリ事業者に問い合わせて連携を依頼するのは、お互いの開発コストがバカになりません。
また、アプリのアップデートをするたびに、電子カルテメーカー各社が対応するとなるとお互いの開発スピードが落ちる可能性があります。
完全に私見ですが、今後は患者予備軍、患者が利用するスマートフォン上のアプリのデータを1次受けして、電子カルテメーカーが使いやすいフォーマットに正規化して情報を受け渡すサービスが出てくるでしょう。
(筆者作成)
そして、各医療機器メーカー、各電子カルテメーカーへのお願い。
というか、厚労省が仕切ってほしいのですが、
健康情報のやりとりに対して、電子カルテメーカーによる囲い込み戦略を取らないでほしいです・・・。
電子カルテメーカーはどこも株式会社なので市場シェアを獲得していかないといけないのは理解しつつも、「このアプリの情報は、この電子カルテでしか取り込めない」という形で電子カルテの拡販を続けると、困るのは最終的に患者です。
もちろん初めは特定のアプリと連携します!という形で事業を展開していくのはよいのですが、最後はみんなで情報を連携し合う世界にしてほしいです。
厚生労働省のみなさん、よろしくお願いしますm(_ _)m そして、規格も統一してくだださい!!!!
おわりに
今回は、クリプラの『産婦人科向けクラウド電子カルテ「CLIPLA Luna(クリプラ ルナ)」』のニュースを受けて、2019年4月時点の電子カルテの状況をまとめました(偏ってますが)。
各社どの診療科でも使える電子カルテを提供しているものの、医療者の使い勝手と診療科を受診する患者が使うアプリを考慮に入れると、診療科に特化した電子カルテがこれから当たり前になってくると予想されます。
加えて、私見たっぷりではありますが、患者が使うアプリと電子カルテの連携が増えれば、健康情報変換サービスが出てくるかも、と考えることもできます。
ただ、患者視点で切に願うのは、電子カルテメーカーとアプリの連携を限定的にしないでほしいということです。アプリ事業者は、ひとつでも電子カルテにつなげることができたら、他のメーカーにもつないでほしいです。その逆もしかりです。
そのあたりは、国主導で行なっていくのが望ましいとは思います。
--筆者--
小迫 正実 (こさこ まさみ)
高校生で訪れたフィリピンのスラム街での体験から、人の命に関わる分野から経済を動かし、世界を変えたいというビジョンを抱く。
2012年慶應義塾大学卒業後、聖路加国際病院で医療の質を司るQIセンターの立ち上げに従事。分析業務から、データ×ITに課題解決の糸口を感じ2014年にヤフーに転職。広告データ事業に従事し、ITへの理解を深める。並行して、病院経営効率化のための一般社団法人Healthcare Opsを2017年に設立し活動。2018年には公衆衛生修士をリバプール大学のオンラインコースで取得。
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