富士フイルム株式会社 UI/UXデザイナー
石垣 純一
「画面の余白が全然無い。」
デザインを担当する画像診断ビューアアプリを初めて見たときの印象でした。
私はメーカー企業で放射線科医が読影業務を行うための画像ビューアアプリのUIデザインを行なっています。
UI(ユーザーインターフェース)デザインとは、毎日利用するスマホなどの画面の<情報>をデザインすることです。一般的なユーザーインターフェースのことを詳しく説明された記事は大量にあるので、ぜひそちらをご覧ください。
ここでは医療アプリのUIデザインの、特徴的なこと、難しいことをまとめます。
効率的な操作
読影医の先生は一日何十件という数の読影をこなさなければなりません。
ビューアアプリは毎日使われるプロ用ツールですから、少しでもマウス移動距離を短くする、クリック数を少なくすることが、アプリの使いやすさに直結します。
例えばマウスの移動距離を短くする工夫として、ツールボタンを診断のワークフローに合わせてグルーピング、レイアウト配置することなどがあります。診断のワークフローは専門的で難しいけれど、そこにはルーティーンが存在します。それを発見することが効率的な操作をさせるデザインの第一歩です。
一覧性
医師は、患者さんの今回の検査だけではなく過去のさまざまな検査結果まで遡り、全体を一覧すると同時に画像一枚を詳しく見て診断します。
よくデザインされたUIは、全体におけるいつの、どの検査を見ているのかが把握でき、検査の相対的な時期や、検査の頻度を知る事でより多くの気づきを得られる(=質の高い診断ができる)ことを支援します。
例えば、検査画像の一覧を表示するリストなどは、必要最小限の行高さとし、多くの検査が画面内に収まるようにする。他にも、主役である画像を大きく見れるように、ボタンを小さくてもわかるアイコンにしたり、サムネイルのステータス表示は線幅1pxでも伝わるようにするなど、一つ一つ小さな工夫を積み重ねていくことが重要です。
安全性
医療で最優先されるべきは安全性です。
緊急性が高いことに気づけること、間違いに気づけること、見逃しに気づけること、UIはそれらをユーザーに伝える必要があります。
そのために使う色は目立つようにしておきたいので、画面の要素はなるべく色数を減らし、単色で伝わるアイコンデザインなどを推奨します。
カスタマイズ性
ユーザーは効率的な操作をするため自分好みのショートカットを求めますが、個別解に陥らないよう、どれだけのユーザーがその使い方をしたいのか注意深く考え、高頻度で行われる操作を一番使いやすくしてあげます。
ユーザーごとにワークフロー(操作の手順)は大きく異なるので、多様なユーザーに会いに行き、観察を重ねることが望ましいです。
最善のデフォルト設定を決めたあと、ユーザー設定によるカスタマイズを考えるようにします。
医療デザインの難しいところ
医療の情報の守秘性が高いことにより、一般的なウェブサービスとは異なってクローズドな環境で使用されていることが多いです。さらに、医師は多忙なので、ユーザーからの十分なフィードバックを集めることも難しいのが現状です。
少ないフィードバックでも、なぜそのような意見が出るのか、何をしたいからそう言われているのか、自身のバイアスを捨て、医師の業務や想いを想像することが大切です。そしてそれこそがデザイナーの得意なことであり、役目だと思います。
まとめ
医療アプリならではの特徴をまとめましたが、改めて医療以外のUIと共通することも多いと感じました。医療アプリのUIデザイナーとして、医療知識が豊富であればそれだけで良いものが作れるわけでなく、いろんな分野のアプリを使いながら良し悪しを体験したり、医療以外のアプリデザインをすることが、結果的に医療アプリデザインの質を高めると思います。
まだまだデザイナーの関わりが少ない医療分野、多くのデザイナーが興味をもって参入する事で、たくさんの良い製品が生まれ、医療従事者のストレス軽減、モチベーション向上、ひいては医療の質向上に貢献できると感じています。
--筆者--
石垣 純一
富士フイルム株式会社 UI/UXデザイナー
千葉大学大学院工学研究科デザイン科学専攻修了。2016年株式会社東芝に入社後、IoTプラットフォームブランド立上げを推進。2017年から富士フイルム株式会社にて医療IT製品のUI / UXデザインおよび医療AIブランドのブランディングデザインを担当。2017年から有志の社会人ものづくりサークル「つくるラボ」でも活動を始め、ハッカソンやコンテストで多数受賞。沖縄県出身。
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