現在、HealthTechとして、ベンチャーキャピタルの健康/医療分野における投資が以前にも増して目立ってきています。
その中でも2018年12月の、500 start ups のCAPSクリニックへの出資は大きなニュースでした。
CAPSは、テクノロジーを駆使したクリニックをチェーン展開することで、プライマリケア業界にアプローチしています。
診察の予約、キャンセルや変更はオンラインで出来るべきです。通院する度に、クリップボードに挟んだたくさんの書類を手渡されるべきではありません。以前受診したときの診察内容は、オンラインで簡単にアクセスできるべきです。クリニックは、患者を顧客として扱うべきです。カスタマー・エクスペリエンスを評価して改善するために、アンケートを実施し患者の待ち時間をトラッキングすべきです。
あと5年もすれば、日本の多くのクリニックでは、今より多くのテクノロジーが導入され、よりよい患者体験が提供され始まるでしょう。
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この状況を受けて、総合病院は何をすべきでしょうか?
地域の中核を担う総合病院では、クリニックを強化して安定化するために、医療連携室を設置している施設がたくさんあります。
厚労省のデータによると、2017年6月末の数字では、全国に548の地域医療支援病院があります。*1
地域医療支援病院の対象となる200床以上の病院数が全国に2649ありますので、地域医療支援病院は全体の20.1%に当たります。
20%の狭き門を突破した病院も、そうでない病院も、これからさらなる高齢化が進む時代に対して、クリニックからの紹介を積極的に取りに行く必要があります。
特に、CAPSのように患者体験を向上させているクリニックは、これからさらに患者が集まると予想され、今のうちから太いパイプを持つことが未来の医療連携にとって大切になってきます。
今回は、総合病院の医療連携室がいかにしてクリニックに営業活動をしているかのご紹介します。
以下の内容は、一般社団法人Healthcare Opsが運営する病院経営運用事例集“Collective Healthcare Ops”から転載です。
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前方連携におけるクリニック・医院への“飛び込み”訪問
氏名:徳原 真
所属:国立国際医療研究センタ−/医療連携室
要旨
前提:高度急性期 特定機能病院・医療連携
課題:前方連携の対象となるクリニック・医院への訪問が充分されていない
対応:医療連携室の事務スタッフによるアポなし訪問の開始
結果:新規紹介患者あり、院内からの評価あり
前提
内部環境:
- 約700床、超急性期、特定機能病院であるが、
- 入院患者の多くは半径10km圏内
外部環境:
- 新宿区内に大学病院が3つ、その他基幹病院が3つと高度医療機関が集中、地元医師会とは良好な関係を保っている。
- 近隣には独居率、高齢化率が高い都営住宅があり。
課題
前方連携の対象となるクリニック・医院の訪問が充分になされていない
背景
経営状態の改善には、年間を通して安定した高い病床稼働率が必要
手術をはじめとする高度急性期の治療が必要な入院患者を安定して獲得するためには、クリニックや病院からの紹介患者の増加が必須
地元の医師会や病院OBからの患者紹介が多いが、近隣の医療機関が地元の医師会に働きかけを強めており、今後は患者が流れる可能性もあり、患者紹介をしてくれる新規の医療機関の開拓が求められている。
状況の分析
患者紹介数が多いクリニック、医師との個人的な関係が深い医療機関などには医師(病院幹部も含む)と事務とで訪問、挨拶には行っていた。
訪問は散発的に行われており、計画的かつ組織的には行われていなかった。
いわゆる“飛び込み営業”のようにクリニックに予約なしで訪問することについては、効果に疑問を持っており全く行っていなかった。
医療連携室の他の業務が忙しく、医療機関の訪問を専門で行う人員が割けなかった。
近隣の医療機関も“飛び込み営業”を行っている様子はない。
診療科長の交代を含む、診療体制の変更のため、新規患者数が下がり、広報が必要な診療科があった。
訪問の対象をクリニック・病院などの医療機関に限っていた。
アプローチ
広報が必要な診療科の洗い出し(自薦も含む)、重点的に宣伝する診療科を決める
重点となる診療科に宣伝用のA4のチラシを作成してもらう。(チラシのフォーマットは共用)
訪問可能な地域を限定して、重点となる診療科に関連するクリニック、医院をインターネットを使って検索(メドプラスを活用)、訪問先を決める。効率よく回れるように訪問計画立てる。
医療連携室の担当の事務方(MSW)が、他の業務の時間の合間を見つけて訪問。(事務方は、今までにクリニックの訪問の経験が比較的豊富)
クリニック・医院をアポなしで訪問、対応した受付、看護師に診療科の簡単な宣伝を行い、パンフレットを渡す。
クリニック毎の訪問記録をまとめ、連携室長がチェック、連携室内で共有ができるようにメドプラスにアップする。
訪問記録を当該の診療科長、病院幹部に報告
診療科長が訪問を希望するクリニック、また、印象がよいクリニックには、診療科長を同行し訪問することを計画。
結果
地域を限って、3つの診療科の関連するクリニック・医院を訪問
訪問件数は1つの診療科について30〜40件程度
訪問したクリニックから手術患者の紹介が1件あり。
クリニックから院長との面会の申し出が2件あり。
実際に訪問してみないとわからない情報が得る事ができる。(待合室に患者さんが多いなど)
一部の病院幹部からの評価あり
議論の残る部分
情報が院長まで伝わっているかは不明(パンフレットはゴミ箱に?)
訪問を繰り返すとかえってクリニックの印象を悪くする可能性もあり
診療科長を同行しての訪問はまだできていない
本当のアウトカムはまだ不明。
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病院の医療連携についての、飛び込み営業の事例、いかがでしたか?
クリニックの身からすると、いきなり飛び込みで来られても・・・というのがありますが、総合病院からすると患者の状況が読めず、いつ手が空くかわからないというのも本音。
テレアポからの訪問という手順を踏みたい気もしますが、クリニック側はいきなりテレアポを総合病院から受けると構えてしまう可能性もある。
とても難しい課題ですが、FAXなどの古い商習慣の医療業界では、筋の通った施策と言えるでしょう。
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