先日参加したビジネスコンテストの、プレゼン後の質疑応答で気になる質問を受けました。
参照:スライド公開!結果は残念でしたが、学びも多かったアイデアピッチ
質問「このサービス(事例集)を提供するにあたり、病院の意思決定権者が強過ぎることについてはどう捉えてるか?」
この質問を受けたとき、こんなことが頭の中をよぎりました。「未だに病院は『医龍』の岸部一徳役のような事務長が、病院の経営に関することを独断で決めていると思っているのか!?」と。
悪徳理事長なんていねーよ!と思いつつ、私はこう答えました。「病院の意思決定には、基本的には稟議書が必要です。事例集が、稟議書に添付される書類になっていくと良いと思っています。」
前職の病院では、稟議書を書くことが当たり前の環境で仕事をしていました。過去の意思決定についても、他の人が書いた稟議書を遡れば、仕事の大枠を理解することもできました。
今回紹介する病院経営の運用事例は、稟議の回議についてです。前職の同じ部署で働いていた先輩が、新しい病院に転職して取り組んだ運用事例です。
すでに環境が整った職場では当たり前の仕組みですが、改めてゼロから構築した事例というのはとても価値があると思います。
以下の内容は、一般社団法人Healthcare Opsが運営する病院経営運用事例集“Collective Healthcare Ops”から転載です。
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院内稟議の回議順序の変更および記録管理
所属:医療法人あかつき会はとがや病院(2017年8月時点)
氏名:髙崎 慶
要旨
- 前提:医療法人あかつき会はとがや病院 (地域包括・療養)の経理部門
- 課題:支払いに際し、過去の意思決定が確認できない。
- 対応:
①稟議書の回議順序の変更
②稟議書に番号(番号管理)を付け、決裁後はスキャンしてデータを保管
③院内に散らばっていた契約書を1か所に収集
前提
環境の紹介
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内部環境: 創立1964年。
埼玉県川口市(旧鳩ケ谷市) 198床(地域包括(13:1)40、医療療養(25:1)60、介護療養(新型老健)(5:1)98) +老健施設(99ベッド)。
職員数は300名程度。稼働率は94%(2016年度)。 -
外部環境:
川口市内に急性期病院は3医療機関。(川口市立医療センター、済生会川口病院、埼玉協同病院) 税理士法人による経理業務サポートを受けている。
課題
請求に対する支払理由の確認が困難であった為、法人内の意思決定フローおよび記録方法を見直すこととした。
背景
自身は2017年1月に転職。医療法人あかつき会の経理課長に着任した。 転職前は、500床規模の急性期病院に勤務しており、その際は、稟議決裁は明確にルールが決められ、かつ過去のデータもかなりの年数分蓄積されていた。また検索も容易に行うことができた。
経理課長の業務として、個々の支払いの確認があるが、なぜこの支払が発生しているか、どういう意思決定がなされているか、時に確認することができなかった。 支払いの遅延が発生することはなかったが、支払理由(意思決定がなされた経緯)を確認するために、かなりの手間を取られたため、法人内の意思決定フローおよび記録方法に問題があると見込み、運用を見直すこととした。
状況の分析
支払いの発生理由としては、2つのパターンがある。
- 突発的なもの→稟議書を要する
- 契約に基づく定期的なもの
①「突発的なもの→稟議書を要する」 については、すべてのケースについて稟議書(事務長または理事長による院内決裁)回議による、意思決定を行っていた。しかし、稟議書の回覧順序が決まっていなかったり、原本を直接本人が持っていたりするなどしたため、いざ支払いの際に、なぜこの支払が発生しているか、確認することが困難であった。経理部門に意思決定の経過を共有する必要があると考え、稟議書の回議順序の見直し、決裁後のデータの記録、原本の取り扱い方法を見直し、支払いに関する稟議書の行方が分からなくなることがないように、運用を見直した。
②「契約に基づく定期的なもの」については、契約書のありかを確認していった際に、担当者が保管しているケースが多くみられた。また、重要な棚とうにバラバラにしまわれているケースが多くみられたため、各部署の重要な棚を確認するに至った。
アプローチ
①「突発的なもの→稟議書を要する」
- 回議順序の見直し(必ず経理課長である、私の受付を行うようにした。)
- 受付した稟議書の一覧表の作成。
- 決裁後のデータの記録(PDF化)
- 原本の保管方法の見直し(担当者→経理担当者、担当者にはコピーを配布)
②「契約に基づく定期的なもの」
- 契約時の書類管理順序の見直し(稟議書による起案→契約書への押印→経理課による保管)
- 契約書保管場所の集約
- 契約書の番号管理
結果
1~3月は、毎月3~4件程度の不明な支払いがあったが、運用を変えてから不明なものはなくなった。
議論の残る部分
稟議書については、提出時の添付する資料の不足などが引き続きある(例:見積もりが取られていない)ため、情報の精査が必要なケースが多くみられる。この点については、周知を強化していく。 契約書管理については、現在引き続き見直し中(院内の契約のすべてを発掘できていない。)
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稟議の回議の事例、いかがでしたか?
言うは易し行うは難し、実際に前の職場でできていたことを、新しい職場で導入するのは大変です。
できていないことに対して「できてない」と言及するだけなく、実行して実際の運用まで乗せるには、なかなかの労力がかかるものです。
もし稟議の回議のやり方が定まってない医療機関がありましたら、本事例を参考に運用を構築してみてください。その際に、この事例が現場を動かす後押しになれば幸いです。
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