こんにちは、編集部Mです。
2018年度の診療報酬改定の概要が決定し、毎日様々なニュースが出てきています。 このブログでも、2018年度改定で気になる項目を取り上げて解説していきたいと思います。
第5回のテーマは、「短期滞在手術等基本料の見直し」です。
今回は、全体的に長く、医事に詳しくない人には難しい部分もあるので、先に結論を伝えます。
まとめ
この改定「短期滞在手術等基本料の見直し」により、
- 短期滞在手術等基本料の算定方法見直しにより、増収目的で入院扱いで行っていた手術は段階的に外来で行っていく必要があります。
- 今後にむけて、短期滞在入院料の対象症例が、平均在院日数と重症度、医療・看護必要度に含まれる場合に備えて、シミュレーションを行っていく必要があります。
「短期滞在手術等基本料」とは?
「短期滞在手術等基本料の見直し」と言われてピンと来るのは、病院で働いている人でも入院部門の医事に関わっている方くらいではないでしょうか。
Wikipediaからの内容(診断群分類包括評価 - Wikipedia)を参考しつつ、まずはDPC病院で算定されている「短期滞在手術等基本料3」の説明から入りたいと思います。
まずは、前提の制度であるDPCの説明
DPCとは、
最も医療資源を投入した一疾患に対し、1日当たりの定額の点数からなる包括評価部分(入院基本料、検査、投薬、注射、画像診断など)が算定される制度のことです。
また包括評価部分以外にも、出来高評価部分(手術、特定の検査、リハビリなど)の手技を行われた場合には、それが組み合わされて算定されます。
例えば、
胆嚢結石に対して手術目的で3泊4日で入院する患者さんの診療報酬は、以下のように計算されます。
仮定:1日当たりのDPC点数:2,500点、手術&麻酔点数が20,000点
→この入院における合計点数は、
2,500点×4日(包括評価部分)+20,000点(出来高評価分)=30,000点
となります。
これを、DPC/PDPS(Diagnosis Procedure Combination / Per-Diem Payment System)と呼びます。
本題の「短期滞在手術等基本料3」とは?
これに対して短期滞在手術等基本料3とは、
短期間で退院可能な検査・手術での入院に対して、包括評価部分・出来高評価部分を含めて一つの入院料が設定されている診療報酬のことを指します。
入院5日目までに該当する手術・検査を実施した場合は、短期滞在手術等基本料3として入院5日目まで定額の診療報酬となります。
例えば
白内障手術での入院を例にとって考えてみると、
一連の入院で算定される点数は、5日以内であれば一律27,093点となります。
「K282 水晶体再建術1 眼内レンズを挿入する場合 ロその他のもの」の点数は、この手術を単体で行う入院の場合には12,100点と設定されています。
しかし、包括+出来高の計算式ではなく、定額の短期滞在入院料(27,093点)が算定されます。
短期滞在手術等基本料3の対象になる手術・検査は?
以下の手術・検査が短期滞在手術等基本料3に該当します。
(参照:診断群分類包括評価 - Wikipedia)
- D237 終夜睡眠ポリグラフィー1 携帯用装置を使用した場合 16,773点
- D237 終夜睡眠ポリグラフィー2 多点感圧センサーを有する睡眠評価装置を使用した場合 9,383点
- D237 終夜睡眠ポリグラフィー3 1及び2以外の場合 9,638点
- D291-2 小児食物アレルギー負荷検査 6,130点
- D413 前立腺針生検法 11,737点
- K008 腋臭症手術2 皮膚有毛部切除術 17,485点
- K093-2 関節鏡下手根管開放手術 20,326点
- K196-2 胸腔鏡下交感神経節切除術(両側) 43,479点
- K282 水晶体再建術1 眼内レンズを挿入する場合 ロその他のもの 27,093点
- K282 水晶体再建術2 眼内レンズを挿入しない場合 21,632点
- K474 乳腺腫瘍摘出術1 長径5cm未満 20,112点
- K617 下肢静脈瘤手術1 抜去切除術 27,311点
- K617 下肢静脈瘤手術2 硬化療法 9,850点
- K617 下肢静脈瘤手術3 高位結紮術 12,371点
- K633 ヘルニア手術5 鼠径ヘルニア(15歳未満の場合) 29,093点
- K633 ヘルニア手術5 鼠径ヘルニア(15歳以上の場合) 24,805点
- K634 腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術(15歳未満の場合) 56,183点
- K634 腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術(15歳以上の場合) 51,480点
- K721 内視鏡的結腸ポリープ・粘膜切除術1 長径2cm未満 14,661点
- K721 内視鏡的結腸ポリープ・粘膜切除術2 長径2cm以上 18,932点
- K743 痔核手術2 硬化療法(四段階注射法) 13,410点
- K867 子宮頚部(腟部)切除術 18,400点
- K873 子宮鏡下子宮筋腫摘出術 35,524点
2018年度改定における短期滞在手術等基本料の扱い
ここからは2018年度改定における短期滞在手術等基本料の見直しについて説明していきます。
中医協資料から分かる概要
2018年度改定における短期滞在手術等基本料の見直しのコンセプトは、
- DPC対象病院では、短期滞在手術等基本料2及び3を算定不可とし、DPC/PDPSによる包括評価とする。
- 平均在院日数と重症度、医療・看護必要度に関する取扱いは、従前の通りとする。
の二つになります。以下は中医協資料からの抜粋です。
基本的な考え方
短期滞在手術等基本料について、入院基本料の平均在院日数や重症度、医療・看護必要度への影響にも配慮しつつ、DPC対象病院はDPC/PDPSによる評価を優先させるよう取扱いを見直す。また、実績データを踏まえ評価の見直しを行う。
具体的な内容
DPC対象病院については、DPC/PDPSによる包括評価を優先し、短期滞在手術等基本料2及び3を算定不可とする。ただし、平均在院日数と重症度、医療・看護必要度に関する取扱いは従前の通りとする。
考察
中医協資料に掲載されている「基本的な考え方」「具体的な内容」から見える、短期滞在手術等基本料2及び3が算定不可になることによる病院運営への影響を考察してみたいと思います。
①「短期滞在入院料の対象症例」は外来での治療がメインに?
白内障手術や内視鏡でのポリープ切除は、現在も多くのクリニックで、外来治療として実施されています。
DPC病院では、これらの症例をあえて入院とし、短期滞在入院料3を算定することで増収を図っていた病院も多いかもしれません。今後はその算定方法が出来なくなります。
外来で行った場合と入院で行った場合の売上の比較を、各病院でもう一度検討する必要がありそうです。
②平均在院日数と重症度、医療・看護必要度の取り扱い
平均在院日数と重症度、医療・看護必要度は、DPC制度において「医療機関別係数」として評価がなされました(重症度は30年度改定より係数から廃止)。
定額のDPC点数は標準評価ですが、医療機関別係数はDPC病院に対しての個別評価、というイメージです。この係数が大きければ大きいほど、1日当たりの定額点数を多く算定することができます(参照:機能評価係数Ⅱが高い病院ランキング(2017年度・DPC病院Ⅲ群) - 病院情報局)。
短期滞在入院料の対象症例は、治療内容が標準化された平均在院日数が短く、重症度も比較的低い症例が主です。以前に引き続き、今回の改定でも、この係数の計算からは短期滞在入院料の対象症例は外されていました。
もし、短期滞在入院料の対象症例が病院の重症度に含まれると、病院全体の重症度は大きく下がってしまいます。
今回の改定では、この取り扱いは従前通りとなっています。ただし、「次の改定でどうなるのか?」を見据えたうえで病院運営を行う必要がありそうです。
入院基本料と重症度の関係性については、以下の記事も読んでみてください!
まとめ
2018年度改定における短期滞在手術等基本料の見直しのコンセプトは、以下の二点です。
- DPC対象病院では短期滞在手術等基本料2及び3を算定不可とし、DPC/PDPSによる包括評価とする。
- 平均在院日数と重症度、医療・看護必要度に関する取扱いは、従前の通りとする。(≒ 短期滞在入院料の対象症例は、重症度に含まれない)
この改定「短期滞在手術等基本料の見直し」により、
- 短期滞在手術等基本料の算定方法見直しにより、増収目的で入院扱いで行っていた手術は段階的に外来で行っていく必要があります。
- 今後にむけて、短期滞在入院料の対象症例が、平均在院日数と重症度、医療・看護必要度に含まれる場合に備えて、シミュレーションを行っていく必要があります。
参照