こんにちは、一般社団法人Healthcare Ops の小迫です。いつも医療経営/病院経営ブログメディア“Healthcare Compass(ヘルスケアコンパス)”を読んで頂き、ありがとうございます。
医療サービスを提供する上での考え方として、「プロダクトアウト」と「マーケットイン」を2極化して考えていいか、自分の中でとても疑問でした。それならば、、、マーケティングの基本概念「プロダクトアウト」「マーケットイン」について調べてみました。全3回に分けてお送りします。
前編では、プロダクトアウトについてまとめました。
医療サービスはプロダクトアウトで考えるべきか?マーケットインで考えるべきか?(前編) - Healthcare Compass (ヘルスケアコンパス)
今回の中編では、マーケットインについて書いていきます。
改めて、言葉の定義の確認
プロダクトアウト
企業が商品開発・生産・販売活動を行う上で、企業側の都合(論理や思想、感性・思い入れ、技術など)を優先するやり方。“作ってから売り方を考える方法”といえる。*1
つまり、医師や経営層が、「◯◯な強みを活かして、新しい診療サービスを始めましょう!」と考えるのがプロダクトアウトです。
マーケットイン
企業が商品開発・生産・販売活動を行ううえで、顧客や購買者の要望・要求・ニーズを理解して、ユーザーが求めているものを求めている数量だけ提供していこうという経営姿勢のこと。“売れるものだけを作って提供する方法”といえる。*2
マーケットインは、「この地域だけは出生率が増加していて、より小児に特化した診療科/サービスを開設すべきだ!」と考えて、医師や看護師、パラメディカルを集めてサービスを始める考え方です。
マーケットインの成功事例
地域や患者にニーズに応じて医療サービスを提供することがマーケットインです。マーケットインで成功している例として、徳洲会グループから「湘南鎌倉総合病院」を取り上げます*3。
マーケットインで成功している理由として、湘南鎌倉総合病院が所属する徳洲会グループの理念が関係しています。
徳洲会は、救急医療・へき地医療、災害時の医療者派遣、国際協力など、「地域の要望に応えてに医療を提供する」ことを前提に医療活動をしています。まさにマーケットインの考え方を理念に掲げているグループです。
その湘南鎌倉総合病院が、鎌倉・湘南地域のニーズに合わせて提供しているのは「救急」です。救急センターで受け入れている受診者の半分は、鎌倉市在住の方です*4。実際、鎌倉市の救急車出動件数推移を見てみると*5、
平成22年の救急車出動件数は、前年から1000件ほど増加しています。それに対して湘南鎌倉総合病院は、平成25年4月には救命救急センターの指定を受けるほど救急のニーズに応えています。ニーズに対する取り組みの方針について、ホームページに以下のように書かれていました*6
24時間365日、すべての救急車収容要請を受け入れることが病院の方針であるため、ERが救急患者を受け入れる部門として確立しています。
年々増加する救急のニーズに対して、救命救急センターが受け入れる体制を整えた結果として、平成27年度のDPCの数値によると、10キロ圏内の医療圏シェアはTOPです*7。
救急体制を確立するために
徳洲会湘南鎌倉総合病院は、患者視点に重点を置いて病院全体を巻き込んで救急体制に取り組んでいます。*6
総合内科、一般外科が専門科として整っているため、入院担当科が決定しにくい場合は、これらの科が必ず引き受ける体制が確立しています。
入院病床は救急患者様のために使用することが優先されており、たとえ入院予定があっても必要があれば救急患者様のために使用されます。
救急患者さんと向き合いながら、ニーズに対して有用かつ持続可能な形で提供していく医療サービスづくりが実践していることがわかります。
極端に考えることの危険性
ヘルスケア領域、特に病院やクリニックの経営において、マーケットインを極端に考えてしまうと以下のことが起きてしまう危険性があります。
前提:その医療機関の目的は「患者に適切な医療を、その医療圏で提供する」ことです。
マーケットインを極端に考えた場合
差別化のない状態でサービスを提供すると、そのサービスは他の病院が提供するものと同価値になってしまい、わざわざその医療施設で提供する意味が薄くなってしまいます。
その危険性に対して湘南鎌倉総合病院では、JCI認証での医療の質をアピールしたり、施設自体を立て替えることで新しさを押し出したり、関連施設の地域包括センターによる社会的支援も充実させたりしていることで、独自の価値を保とうとしています。
中編マーケットインのまとめ
医療サービスにおけるマーケットインについて、今回は調べてみました。
プロダクトアウトの反面として、徹底的に患者のニーズに答えていくマーケットイン。しかし、この考え方もプロダクトアウトと表裏一体で、地域のニーズに応えられるだけの病院の体制が必要であることが大前提です。
ただ、シンプルにマーケットインについてまとめるならば、
- 地域や患者のニーズを発端にして、医療サービスを提供すること
- ニーズだけでなく、患者さんへのサービス提供方法が成功の鍵であること
- 競合がいるところでは、サービスはコモディティ化する危険があること
といえます。
(Edit:編集部M)
参照
- 情報システム用語事典:プロダクトアウト(ぷろだくとあうと) - ITmedia エンタープライズ
- 情報マネジメント用語辞典:マーケットイン(まーけっといん) - ITmedia エンタープライズ
- 医療法人 沖縄徳洲会 湘南鎌倉総合病院
- ER/救急総合診療科 | 医療法人 沖縄徳洲会 湘南鎌倉総合病院
- 鎌倉市/救急統計
- STORY1 救急指定病院 | 徳洲会グループ
- http://hospia.jp/hoscmp/1142104669
続きはこちらから